第13話 素直な空

──ザーッ


少年が朝起きた時は、屋根から落ちてくる水滴の音が聞こえていて、外もそんなに荒れた天気ではなかった。

だから少年は心の中で「すぐ晴れるだろう」と思っていた。しかし、今は空が厚い暗雲で覆われていて、止むどころか雨の勢いがますます強くなってきている。

当然外の作業もできまい。


──そんな中、少年達は限られた時間を上手く使おうとしていた。


「ねぇリーシャ、本ってどこに置いてあるの?」

「本は四階よー」

「わかった。じゃあ四階に行こうか」


シオンが先頭になってその後にシイナ、リーシャと続き、四階を目指す。

シオンが四階のドアを開けるとそこには、本棚に大量に書物が詰められていた空間が広がっていた。それも三部屋分だ。

──三人が手分けして「この世界の地図が載っている」書物を探し出す。


◇◇◇


「うーん。ないなぁ……ねぇシイナ、シイナは地図が載っている書物がどこにあるとか分からないの?」

「家を造った時に、どの本をどこに置くとか考えないで置いちゃったからどこにあるかは分からない……ごめんなさい……」

「いや、別に謝らなくてもいいよ。シイナは僕達のために家を造ってくれたんだから、書物を探すくらいは自分達でしないといけないよ」


シオンは部屋中を探したが、お目当ての書物が出てこなく、シイナならという希望にかけた。しかし、そんな希望をかけられた彼女も、書物の在り処までは分からなかった。

そんな時、別の部屋からもう一人の声が聞こえてきた──


「シオン、シイナちょっと来てー、あったかもしれなーい」

「おっ……わかった!今行く!」


シオンはシイナと顔を見合わせ頷き、顔をにやりとさせリーシャに返事をした。


「シオンこれよこれ、これで間違いないわよね?」

「うん。確かにそのようだね」


──パラパラパラー


お、あったか。

──ふーん。そうなのか。


完全に書物の内容に集中し、周りを気にせずブツブツと呟いていく少年。

少年は地図の描き方に注目していた。


「この地図の描き方嫌いじゃないわ」


リーシャもやはり地図の描き方に注目していた。

そんな地図とは──

森霊族エルフの領内は緑色、地精族ドワーフは茶色、悪魔族デーモンは紫色、天使族エンジェルは黄色、巨人族ジャイアントは橙色、吸血鬼族ヴァンパイアは赤色、自分達のいる真ん中は白色、そしてそれ以外は緑色で所々青色の線が入っている。おそらく川などだろう。


──バタンッ


載っていた地図を見終わり書物を閉じる。


「──って! もうこんな時間じゃない!」


書物一冊を探すのに結構時間がかかったと思い、リーシャが時計を見やると、時計の針はもう12時を指していた。

開始したのが8時くらいだとすると、だいたい4時間は経過している。

こんなにも時間が経過するのには、大量の書物以外にもう一つの理由があった。

それは、厚さが違ってもどの書物も見た目は同じということだったのだ。


一階に戻り昼食をとる三人──


◇◇◇


──その日の夜


空を見上げると、そこにはさっきまで空を覆っていた厚い雲がなくなり、綺麗な星々が散らばっている。


やっぱり地球とは全然違うんだなぁ。

星座とかもあるわけでもないし、月みたいなものは浮かんでいるけど、月ではないしなぁ……

こうして僕が今星を眺めているのと同じ様に、他の種族の誰かも眺めているのかなぁ。

でも、地球との共通点はある。

それは──

空は素直であることだ。

朝、昼、夜どの空もだ。

人は何故空を見て感動したり、楽しんだり、元気づけられたり、自分が小さな存在だと思ったりする様に心を動かされるのか──

これは個人的な意見だが、心が動かされる理由はその素直さにあると思う。

だから僕はそんな空に憧れる。地球に居ない今も、ね……

ほら、こんな風に僕のことも楽しませてくれるしね。


シイナが建てた家の屋根の上で、星を眺めながら自分の感情が変わっていくのを楽しむ少年。

そんな少年の顔はいつもより穏やかなものとなっていた。


◇◇◇


「シイナ見て見て! あの星綺麗じゃない?!」

「ホントだっ!」


リーシャ達は四階ので望遠鏡を覗き、星を見て楽しんでいた。


「ねぇねぇシイナ、あの月みたいなやつって何?」

「あれは、SAエスエーの裏側り張り付いていたもので、昼間SAから出されたエネルギーを裏で吸収し、それを夜になったら自らで出しているんだ。」

「え、エスエーって何?」

「前にで言った、Spirit Aggregationを省略したものだよー」

「あ、そうだったのね! 納得いったわ」

「てかリーシャ、寝なくていいの?」

「そうね。いつもならまだ寝ないけど、明日の朝、外でいろいろやりたいからね」


◇◇◇


よし。もう寝るかぁ。


明日の朝は寒くなりそうだな──


少年の声は普段に比べ小さかったが、この夜の静寂な空間には十分すぎる大きさの呟きだった。

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