第3章 世界を救う前に
第10話 異世界生活
「んー……」
顎に手を当てながら、弧を描く様に歩く少年。
彼はリーシャ達とこの世界を変えると言ったものの、まず何をすればいいかが分からなくずっと悩んでいた。
「あ、そうだまずは家を建てようか」
「はぁ?! まず家を建てるですって?! それよりも、服とかどうにかなんないの! それとシャワーも!」
「異世界に転移したばっかりだというのに注文が多いですこと。それに、シャワーとか、着替えとかも家がないと女子はキツいでしょ」
「確かに……」
シオンはまず初めに自分達の拠点となる場所を得るために、家を建てると考えた。それに対し、リーシャは我慢しきれなくなったのか、不満の声を漏らしていた。
シオンはそんなリーシャに冷静に対応し、家の大切さを教えた。リーシャもその言葉が正しいと思ったのか認めていた。
そんなやり取りをしている二人の横でシイナは、右手を動かしながら、機械を操作していた。
次の瞬間──
バタッ
少年たちの目の前に、チェーンソーと思しきものが落ちてきた。
シオンはだいたい予想はついていたが、念の為確認する。
「シ、シイナ……さん? このチェーンソーで木を切ると思うんですが、その後はもしかして──家造り?」
「シイナは必要最低限なことはするって言ったよお兄ちゃん。だから、木さえ切ってくれれば後はシイナの方で家を造るから。」
で、ですよねー……
少年は木を切る作業はあるのだということに不満を口に出さなかったが、内心ガッカリしていた。
──切る場所をそれぞれ決めて、木を切り始める少年と少女。
◇◇◇
「──っはぁ疲れた」
シオンは丸太の側面によっかかりながら休憩し、誰にも聞こえない様な小さな声で呟いた。
その頃、リーシャの方もちょうど終わっていた。
「久々に運動したからでしょうが、クソニート」
「ク、クソニートとはなんだ! いつもとは違う筋肉を動かしたからだよ!」
「はいはい、そうですかー」
リーシャは丸太の傍で休んでいたシオンが発した言葉を聞いて、頬を膨らましながらシオンに「クソニート」と言った。
彼女はいつもシオンに遊ぼと声をかけているのに、シオンは「運動したくなーい」と答えるのだ。
そんな感じだから、彼女は少し怒り気味に言った。
──二人へ歩み寄るシイナ。
「っほい」
──ドスンッ
「ってて……なんだ……っえぇ?!」
よっかかっていた丸太が無くなり、背中を地面につけるシオン。
そんなシオンの目線は上を向いていたが、シオンの瞳には大きな建物が映っていた。
普通の家より4倍くらいの立派な家が建っていた。
シオンは近くにいたリーシャが一向に動く気配がなく、彼女の方を見やると、リーシャは目を見開き、口があいたままの状態でつっ立っていた。
シオンはリーシャの背後に回り、イタズラ混じりに右肩をツンツンと指で触れると──
「──きゃ! だれ……ってシオンじゃない! 脅かさなさいでよね」
「ごめんごめん。リーシャがあまりにも動こうとしないんでね」
「だって、こんな大きな家を見たら普通驚くでしょ」
「うん。僕も驚いたよ」
シオンに声をかけられ、我に返ったリーシャ。
やはり、こんな大きな家を見るとリーシャも驚くらしい。
二人と、そんな家を造った当の
木でできているがドアだけでも立派と分かる。
──キィーッ
「あら、いい音ね」
「──ご、ごめん。今の僕の声」
「──ッ! シーオーンー! 」
「すす、すみませんでしたぁぁ!」
シオンは久しぶりに、ドアが開く時の音を声で真似した。
リーシャは本当のドアが開く音だと思っていたから顔を真っ赤に染めた。
異世界だというのにも関わらず、玄関前でいつもの流れを作る二人。案外、こういう流れがいいのかもしれない。
家の中へと入っていく三人。
中に入りやっと安心感が芽生えてきたのか、シオン達は顔に笑みを浮かべながら家の中を見渡す。
木を切って疲れたシオンはソファーでぐったりとしていた。
──そんな時、リーシャは何かを探すかのように家の中を
「リーシャー、どうしたのさ?」
「んー、お風呂はないのかなって思っててさー……」
「そうなのか。じゃあ、お風呂を探すついでに家の中をもっと見て回ろっか」
◇◇◇
家の中を見て回り、一階へと戻ってきた三人。
三人はソファーに腰を掛け、何やら話をしていた。
紙を手に取って何かを書き始めるリーシャ。
「シオンー、分かったこと教えてー」
「うんいいよー。えーとね、一階は今居て分かる通り、ソファーや椅子、テーブル、キッチン、冷蔵庫、そういったものがあって、くつろぐにはもってこいかな。地下室には実験用具などがあったかな。シイナは?」
「二階には、お風呂、寝室、お兄ちゃん達のもといた世界にある、和室ってのもあったよー。お姉ちゃんは?」
「お、お姉ちゃん?! そういえばそういう設定だったわね。えぇと、三階には植物がたくさん植えてあったわ。あ、あとトレーニングルームもあった。四階には、望遠鏡とかがあったかな?」
全員が情報を交換して、リーシャが紙にまとめる。
書き足すとすれば、全フロアにトイレがあったことだ。
シオンが疑問に思っていたことをシイナに聞いた──
「シイナ、風呂とかトイレとか冷蔵庫とかあったけど、どうやって、水やお湯や電気を作り出すの?」
「必要最低限なことはおまかせ!」
胸を張って言うシイナは、シオンに褒めてもらいたそうな顔をしていた。
「必要最低限ねぇ……This is cheat!!」
必要最低限の割にはサービスがつきすぎている、そんな現状をシオンは「チート」の一言でしめた──
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