第6話 悲惨な世界
──時間がリセットされる世界だって? 冗談じゃない。そんなことがもし起こったら、それまで生きてきた人達、動物達、あらゆる生き物達はどうなるんだ……それに、僕やリーシャ、シイナだって──
──もちろんなかったことになる。
いや、そうだけど、じゃあ何故彼ら「精霊」はこの大量な書物を遺せた……
ん? 待てよ、でも彼らはこう語っていたじゃないか「だから我々はこの書物を遺せたんだ」と。つまりその前文が鍵となるのか……
でも、「時間だけ」がリセットされるって言葉の中に何か隠されているものでもあるのか? 今の僕にはまだ結論づけることはできなそうだな。
──シオンは長い時間自問していた。
「ねぇシオン、次読もうよ」
「あ、あぁ……」
リーシャに声をかけられ、やっと我に返った少年。
そして、次の項目を読み始める。
2.~この世界の真実と偽り~
まずこの世界の真実を教えるよ。この世界はニセモノなんかじゃない。本物だ。この世界でなにか凄いことを成し遂げた、凄まじい技術を身につけたとしても、もといた世界に決して戻ることはできない。理由は単純、世界が君たちを求めたんだから。世界が欲するものが手に入ったとして、そのものが最終的な目標を達成したとしても、世界はすぐそのものを手放すか?
──否だ。
残念ながらこの世界は思っているより甘くはない。
次に偽りを教えるよ。次の項目で特徴や生息域など細かい内容を書いているが、この世界には君たち転移者以外に、もちろん生物は存在する。
ある日、天から各種族に一冊ずつ書物が降ってきた。これは事実だ。
どの書物も内容が同じで、この世界にいる生物はみな仲が良く、互いを助け合っていると記されている。しかし、これは大きな嘘だ。この情報に騙されてはならない。この世界いる生物達はみな自分達の種族の為だけを考え生きている。
それに多種多様な生き物がいる世界でこんなことがあり得ると思うか? まぁ、無くはないがな。このことに対して疑問に思うのであれば、身近な例を挙げてみるといい。君たち人間が暮らす世界に「生物はみな仲が良く、互いを助け合っている」なーんてバカげた現象があるか? 私はないと思っている。
この世界の書物には「共存」という言葉すらないんだよ。そこに共存と書いてしまったら、敵の不意をつきにくいからな。
この時シオンとリーシャはお互いの顔をみていた。
二人とも、敵の不意をつきにくいからといったところに疑問をもったのだ。不意をつく? そんなの関係あるの? と。
そしてまた読み始める。
共存ということはつまり、「食う食われる」の関係が必然的に成り立ってしまうのだ。この関係が成り立たなければ、生物は生きていくことが難しい。というかほぼ無理なのだ。よって生物はそのままの状態でいてしまうことになる。
──そう、書物の贈り主は、「不意をつかせる=各種族が獲物を獲やすくなる」という風に考えていたのだ。そうすれば、いずれは上位種が残り、またその食料がなくなり直に滅んでいく。よって争いはなくなる。もう分かったかもしれないけど、この贈り主は「世界」なんだよ。
しかし、世界は生物は成長するということを考えていなかったのだ。書物に記されていることは嘘だということが各種族にバレてしまったのだ。ということは、警戒心が強くなり以前よりも獲物が獲られなくなり、対種族の全面戦争の勃発だ。だから毎度毎度世界が
「ちょっと頭の中がごちゃごちゃになってきたけど、この書き方は少し間違っていない? ここにある書物は精霊達の技術によって遺されている。でも、そんな技術が世界にも、各種族にもあるとは思えない。ましてやそんな失敗を呼び起こす書物を精霊達が遺すわけでもない。だから最初に降ってくる書物も次の
「お兄ちゃん凄いね。よくそこまで頭が回ったね。」
「ちょ、ちょっとどういうこと?! 何が何だかさっぱりなんだけど……」
シオンはこの書物の書き方は間違っていると思ったが、それを口にしていくうちに、世界のもう一つの真実に気づいてしまったのだ。
それは──
「世界は本当に時間だけをリセットすることしかできない」
額にうっすらと汗を浮かべて言う少年。
世界は自分自身のしたことに永久に上書きをすることができないのだ。各種族がしたことは時間が伴うから当然消える。
「じゃあ、ここに書かれてあることをリンクさせて考えると、世界は自分が各種族に書物を一冊与えるという上書きされない設定を作っちゃったわけ?!」
「そうなるね……」
「じゃあ、私達が生きる今も直に同じような結末を迎えることになるの?」
「そうなるんだけど、そこを何とかしていくのが僕達なんだろう。世界が僕達を求めたようにね……」
その場に緊張が走った──
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