第2話 アーク学園と異変
雲ひとつない空に浮かぶ太陽。
そこからは、いつにもまして暑い熱が放たれている。
空の下を歩く少年たちは額に汗を浮かべていた。
たまに吹く風は何よりもの救いだ。
「ねぇ、シオンー。もう帰ろうよー」
「まだ家を出てから5分も経ってないんだけど……」
二人は今アーク学園へと向かっているところだ。
「最初の気力はどこへ行ったのさリーシャ」
「私そんなに元気だったー?」
少年は内心思った。 ダメだ……
家を出た時は、あんなにはしゃいでいたのに……
それに、僕達が歩く脇にある、数えきれないほどの花を見る度に僕の腕に掴まっていたのに!手も繋いでいたのに!
今ではこの有り様
両手を地面に向けてぶらんぶらんしてるし。たまに出会う町の人に見られるとこっちまで恥ずかしくなってくる。
……よし、背中に虫でもつけてあげようか
少年は無意識に微笑んでいた。
それを見ていたリーシャは──
「気持ち悪いわね。歩きながら笑ってるとか、本当にやばいよ? 学園の先生も言ってたじゃない。何もしてない時に笑うのって、変態の証拠なんだって。」
「はいはい。ていうか、見えてきたよアーク学園」
リーシャに言われたことに特に何か返すわけでもなく、遠くを見ながら言うシオン。彼らが見やった先には、ただただポツリと建っていたアーク学園があった。
──アーク学園
その建造物の周囲には建物が何もなく、草や木といった自然にできたものしかない。大きさは生徒数が多いせいか比較的大きい。
シオン達生徒、皆の家は丘の上にある。
学園側は、自らの学園を目立たせたいといった理由でこの様な何もない場所に建たせたという。
「じゃあリーシャ、学園の周りを見てまわろっか」
「ええ。」
シオン達は学園に入る前にまず学園の周囲を見てまわることにした。しかしリーシャは、少し浮かない顔をしていた。
そして二人は学園前で別れた。シオンは学園の正面から見て東側、リーシャは西側を行く。
「うーん。何でだろう……」
リーシャはまたも浮かない顔をして、なにか疑問に思っていた。
「やっぱり何もないのよねぇ……」
学園の周囲には何もないという、当たり前のことを再確認した。彼女はその「何もない」というところが疑問だったのだ。
あちこちを見てまわり、学園のちょうど裏側に着いたところで──
「さっきから
少女は先程から自分が踏みつけていた土に少々腹立てていて、思わず怒りを露にした。
足の下にある土は、粘り気が強く、ぐちょぐちょしていた。
一方でシオンは──
「うーん。本当に何もないんだなぁ」
こちらもリーシャと同じように、「何もない」ということに疑問を持ち始めていた。
頭を悩ませながら歩く少年。
学園の真横ら辺に来て、何かに気がついた。
「な、何だろうこれは……」
少し言葉を詰まらせ、土に埋もれていた白いものに手を伸ばす。
拾い上げようとした瞬間、今までは何ともなかった足下が急に緩み、右足が埋まった。
これは少年が右手を前に出して拾おうとして、右足に体重がかかったからだろう。
バランスを崩す少年。しかし、何とか正面から倒れるのを防いだ。
気になった「白いもの」を拾うのを諦め、そのまま歩いていくことにした。
学園のちょうど裏側に着き──
「おぉ、リーシャ」
「あ、シオン」
二人は互いに出会ってから少し遅れて、それぞれに声をかけた。
二人はまだ頭を悩ませていた。
「何か感じたことはあった?」
少年が問う。
「ええ。土が……ちょっとね……」
土と言われてみれば確かに。体重をかけたら急に沈んだしなぁ……
でも、普通に歩いていて、そんな体重をかけたら沈むとかというのは感じはしなかったからやっぱりなにかあるのかな。
眉をひそめながらリーシャが言ったことに、自分の実体験を重ね合わせて長考した。
「どうしたの? シオン」
「ごめんごめん。少し身に覚えがあってね。」
「身に覚え? シオンも土に関して何かあったの?」
「うん。白いものが埋まってたからそれを拾おうとして、体重をかけたら埋まっちゃって……」
シオンから中々返事が返ってこなく、リーシャは聞いた。
少年は自分が疑問に思ったことを躊躇わず、話せることは全て話した。
「白いもの? 何かしら、気になるわね。」
「うん。」
少女はその「白いもの」に引っかかり、少年に確認した。
少年はコクリと頷く。
「まるで、土が意志を持っているみたいね」
「意志を持っているかのようだね」
二人は同じことを言っていた。
──それぞれの情報をまとめ、学園内に行ったらもしかしたら何かわかるのではないかと結論を出した二人。
「んー、そっちは何かあったー?」
「いや、何も……」
学園内の隅から隅まで何か資料がないかと探す。
「もしかしたら、職員室に何かあるんじゃない?」
「しょ、職員室?! そこまで行っちゃダメだってくらい、あんたも分かるでしょう?!」
「でも、資料のためだよ?」
リーシャはシオンの衝撃的な発言には流石に驚いた。
しかしシオンは入るときかず、結局リーシャは入ることになった。
「リーシャ! あったよ!」
「嘘でしょ?! 」
「ほんとほんと、これだよこれ」
「ほん……とだ……」
少女は意外な出来事にまたも驚いた。
資料はポツンと、教職員のデスクに置かれていた。
「アーク学園の歴史」
資料には、こんなタイトルが書かれていた。
「……」
「……」
少年達は完全に見入っていた。
そこには、こんなことが書かれていた。
──アーク学園は10年前に建てられた。この学園の由来は「ark」という単語からきている。「ark」とは「方舟はこぶね」を意味する。この地域は昔ノアの方舟が辿り着いた地域だ。ノアの方舟には数多もの生物が乗せられていた。しかし、それらは全て死んでしまった。そして、その死骸をこのアーク学園の周囲に土と一緒に埋め込んだ。
そのせいか、土は意志を持つようになった。
何かしようとすると、必死にそれを止めようとしている。
多分、埋められた動物達がさらに居場所を奪われるのを嫌がっているのだ。
「うそ……こんな歴史があっただなんて……」
「何事もなかったことにしよう。動物達のためにも、ね……」
「そうね……」
シオンは動物達を気遣い、この件はリーシャと彼の二人だけの秘密としようとしていた。
リーシャもそれに関しては同意見だった。
学園を出ていく二人──
「なーんか、いけないことしちゃった感じだねぇ」
「ああ。気が重いよ……」
気分がスッキリしないシオンとリーシャ。
そんな二人の目の前に──
──ピカッ
「──ッ! なん……だこれはっ」
「キャッ! なに……?」
二人の眼の前に現れたのは、眼を焼きつけるほどの光だった──
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