変わりゆく世界で一を創造する者

キリシェ

日常と異変

第1話 幼馴染との日常

波の音さえも木霊するような静寂。

今にも吸い込まれそうな蒼穹。

ある一人の少年の家は、丘の上にある。その周りにある木々は青々とした葉を繁らせ、一際目立っている。部屋の窓から見える海も、夏を思わせる様な雰囲気を漂わせている。


ある少年は、この体感時間がいつもより長く感じる中で、額に汗をかきながら一言だけ発した。


「暑いなぁ……」


少年が温度計を見やると、そこには32℃と表示されていた。今日は夏休みの初日で気温がそこそこ高くなる時期だ。


ピンポーン


「ん?」


少年はインターホンの音だと数秒遅れて気付いた。

何故なら彼は、起きてからまだ外に出ていない上、蒸し暑く静寂な空間へやに居るからだ。意識も朦朧としてくるだろう。



「やっほー! シオン!」


シオン。そう、少年の名前だ。そして、名前を呼んだのはリーシャというシオンの小さい頃からの唯一の幼馴染だ。


「やぁ、リーシャ。こんな時間からどうしたんだ?」


シオンは落ち着いた表情でリーシャに言った。


「はぁ?! 夏休み前に、夏休みになったら私シオンの家であんたと一緒に勉強するからねって約束してたでしょう?!」

「あ。そういえばそんな約束もしてたか」

「ちょ、何よそんな約束って! 私にとっては大事な約束の内の一つなんだから!」


リーシャはシオンのいい加減な返事に頬を膨らませながら勢いよく発言していた。そのせいか、自分が何を言ったのかも気付いていないようだ。


「ふーん。僕との約束がそんなに大事なんだぁ」


シオンは先程までの落ち着いた雰囲気とは打って変わり、前にいるリーシャがどんな反応をするか楽しみにしている様子だ。


「私をからかわないで! シオンったらいつもは落ち着いていて何でも優しく引き受けてくれるのに、たまにこんな風に女の子をからかうクセがあるんだから」


顔を赤らめる少女。

そんないつものやり取りをしながら階段を上って、シオンの部屋に行く二人。


キィーッ


ドアが開く音だった。

少女は自分の家のドアが開く音よりも高いと思ったのか、思わずこう発した。


「あら、随分と高い音ね。」

「ん? あー、今のは僕の声だよリーシャ」

「…………」

「ちょっと! 何か言ってよ! こっちがバカだと思われるじゃん!」

「だって私が反応するとあんたまたやりたくなるでしょ? だからよ。それにあんたは既にバカですぅ 」



そう、リーシャはシオンと同じアーク学園に通っている。彼女がアーク学園で、2番目に成績が良いシオンにこう言える理由は簡単だ。単に頭が良すぎるのだ。普通の人から見ると、シオンの頭の良さも尋常じゃないと思われるだろう。しかし彼女は、1年間に行われる全てのテストで、全教科において満点を維持している。それだけではない、頭が良いと言われるからには、例えば数学の問題を見た時に、瞬時に規則性に気づけるかなどの能力も、もちろん身に付いている。


シオンは何も言い返せなく、この件に関しては一歩譲ってやるかと内心思い、部屋に入りながら別の話題を振った。


「あのさ、僕ずっとリーシャに言いたかったんだけど、一緒に学園にいかない?」

「え、今から? まぁ、夏休み中に学校に来るなとは言われてないからねー。いいんじゃない?」


シオンの誘いに対して彼女がこう応えたのにも訳がある。

そこらの学校であれば、部活動や他に大事な予定がなければ、学校へ無断で来るのはあまり良い印象を与えない。というか大半がダメだ。

それに対しアーク学園は、生徒達に学園が良い場所だと思わせたいが故に、夏休み中に無断で学園に来ることを許可している。


少年が声を張って――


「さぁゆくぞ! リーシャ!」


リーシャは思った。

今日のシオン絶対変だよね?!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る