第24話
東京に戻った千夏は本屋のアルバイトを辞め、木崎さんのアシスタントになった
俺は博さんがどんな写真を撮る人だったのか気になってた
千夏は父親がプロのカメラマンだったってことをずっと知らなかったらしい
どうせ、大したことないよって笑ったけど
俺はやっぱりどうしても気になった
撮影の日
木崎さんに聞いてみた
「木崎さん、昔、カメラマンやってた椎名 博さんって方、ご存知ですか?」
「拓也、どうしてその名前を?」
「知ってるんですか?!」
「知ってるもなにも、俺の尊敬するカメラマンだよ。辞めてから…今はどうしてるんだろう。もったいないよなぁ」
「椎名さんの写真って何処かで見れますか?」
「俺の事務所にあるよ」
木崎さんに見せてもらった博さんの写真はどれも素晴らしいものだった
どこか懐かしくて、あったかくて、1度見ると瞼の裏に刻み込まれるような不思議な感覚だった
「人は…撮らないんですね」
「椎名さん、愛する人しか撮らないって言って滅多に人を撮らなかったなぁ。
金にならない仕事ばかりやって…。
でも、俺はそういう、ある意味、無骨なところが好きだったんだ」
たくさんの写真の中に1枚、女性の写真を見つけた
よく見ると、それは…若かりし頃の由紀子さんの姿
なるほどなぁ。
確かに愛する人だ
ぶれてない
千夏は大きな愛に包まれて育った
だから、人を真っ直ぐに愛することの出来る人
そんな彼女に恥じないような男にならないと…と改めて背筋が伸びる思いだった
写真の中の由紀子さんのキラキラした瞳は
千夏そっくりだった
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
もしも、拓也くんと出会ってなかったら、
私は今、どんな時間を過ごしていただろう
彼の寝顔を見ながら、そんなことを思う夜は、どうしようもなく離れたくなくて、触れていたくて…
そっと彼の胸に耳をあてると、
ドクンドクンと力強い鼓動が響く
「ん?どした?」
「ごめん、起こしたね」
「眠れないの?」
「うううん、大丈夫」
何も言わず、包み込むように抱きしめてくれる
私の首もとに顔を埋めて、大きく息を吸うと囁くように言った
「千夏、ずっとここにいて」
「うん」
「じゃ、手貸して」
「なに?」
「約束な」
小指を絡めて微笑む彼
そんな優しい声聞くと泣いちゃうよ
「うん、約束ね」
「おやすみ」
「…おやすみ」
約束すると守らなくちゃいけない、やぶっちゃいけないと頑張ってきた。
でも、彼との約束は頑張らなくていい
だって、それは容易いこと
この小指がほどけないようにすればいいだけだから。
同じ強さで絡められた彼の指の温かさを感じてると幸せだった
もしも…なんて考えなくていいんだね
彼といるこの時間は重ねていけば
きっと、未来に繋がる
ずるいよ、拓也くん
余計に眠れないよー。
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