第18話
駅前の書店
平日の昼間はお客さんもほとんどなく、静かな時間が流れてた
店頭に並べられた雑誌の中には拓也くんの顔があちらこちらに見える
1冊、手にとって頁をめくると、その中にいる彼は…
去年の夏
並んで星を眺めてた彼とは別人のようだった
最近、拓也くん、忙しくて、ちゃんと話してないなぁ
本の中の彼を見つめながら、大きくため息をついた
「そんなに見んなよ。何か恥ずかしいじゃん」
「えぇー!」
背後から大好きな人の声
「声デカイって」
口を塞がれた
「な、なんで、いるの?ダメでしょ、こんなとこ来たら」
彼の耳元で言った
サングラスにマスクはしているものの、声が…。
腕を引っ張って店の隅っこに連れて行った
「千夏がサボってないか、見に来たんだよ」
「仕事は?どうやって来たの?」
「ここの近くで仕事だったんだ。ちょっと時間が出来たからダッシュで来た」
「拓也くん…」
あー、もう、そんな切ない顔すんなよ。
こっちが辛くなる
今にも泣きそうな彼女を茶化すように肩に手を置いてコソコソと言った
「なぁなぁ、すっげぇ、エロい本とかないの?見ようぜ」
「ば、ばか、そんなのないよ」
真っ赤になる彼女の頬に触れると抱きしめてほしいと言ってるような潤んだ瞳
「千夏…」
この頃、いつも寝顔の千夏に"ただいま”と言って眠りにつく
朝は、眠る俺に彼女が"いってきます”を言って出掛ける毎日
ほんの少しの時間でも彼女の笑顔が見たくて仕事の合間に飛んできた
すぐに抱きしめたかったけど、ここじゃ…
千夏の頭をグッと引き寄せて、熱くなった頬を俺の胸に一瞬押し当てて、唇を親指でそっと擦った
たった、それぐらいのことしか、今の俺には出来なかった
でも、彼女は俺のもどかしい思いを察しているかのように満面の笑顔で言ってくれた
「充電完了!拓也くん、ありがとう。
私、元気出たよ」
充電されたのは、俺の方だよ
「じゃ、行くな」
「うん、頑張ってね」
書店を後にして足早に現場に向かった
やっべぇ、俺、絶対顔にやけてるわ
マスクしてて、良かった
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