第13話
拓也くん…どうして、あんなこと…。
私、泣いちゃったけど、彼のこと怖くはなかった
悲しい目をしてた
それが辛かっただけ。
この部屋に来てから、拓也くんはいつも私のこと気遣ってくれてた。
夜中、物音をたてないように帰って来たり、お風呂に入りやすいように時間をずらしてくれたり。
ぶっきらぼうだけどそんなさりげない優しさが心にしみた
抱きしめられた時にうつったアルコールとも香水とも違う彼の匂いが身体に微かに残る
その匂いに包まれてると高揚していた気持ちが不思議と落ち着き、知らぬ間に眠りについていた
あくる朝、
そーっと起きていくと拓也くんはまだ寝てるのか、出掛けた様子はなかった
かなり飲んでたし、大丈夫かな
リビングに置きっぱなしになってる拓也くんのスマホが鳴り出した
どうしよー、マネャーさんかも?
「拓也くーん、電話鳴ってるよ」
初めて入る彼の部屋
寝息をたててよく眠ってる
フフ、あどけない寝顔
起こすの可哀想だけど…
「ねぇ、起きて、電話よ」
「うっさいなぁ」
私の顔も見ず、スマホを奪い取ると何やら話してすぐに切り、放り投げてまたすぐに布団にもぐった
部屋を出ようとすると背後から声がした
「何で?千夏ちゃん、いるの?」
振り返るとベッドに座ってぼーっと見てる
寝惚けてる??
「いやっ、あの、電話鳴ってたから」
「そっか」
「た、拓也くん、昨日…」
「昨日?」
「うううん、何でもない。やっぱり酔ってたんだよね。忘れてるならいい」
「何だよ?」
「いいの。まだ寝るよね。
ごめんなさい。勝手に入ってきて」
慌てて、出て行った彼女
忘れてねぇよ
全部、覚えてる
柔らかい唇も
首筋の甘い香りも
流した涙も
忘れろって言われても
もう、忘れられない
あの夜以来、俺は極力、千夏ちゃんと顔を会わせないようにした
自分を止められない気がしたから。
彼女への気持ちがはっきりとわかったから。
今日は先日のスタジオで撮影
「拓也ぁー、この間の可愛い子、拓也とはどういう関係?」
「親戚の子だよ」
「ふーん、親戚ねぇ、まっ、いいわ。
明日なんだけどね、ちょっと人が足りなくて、あの子にお願いしたいんだけど、どうかな?」
「そんなん無理だよ。アイツ、素人だし」
「大丈夫よ。後ろの方で立っといてくれるだけでいいから。お願いしてみてっ」
「まぁ、一応、聞いてみるけど…」
「ありがと、頼んだわよ」
千夏ちゃんがモデルなんか、やるわけないと思ってたのに…
「うーん、どうしよっかな。やってみようかな」
「え、やるの?」
「だって、拓也くんにお世話になりっぱなしだし、少しは稼がないとね。とりあえず、バイトは決めてきたんだけど、そっちもやる!」
「俺は全然いいんだよ。バイトするなら、やらなくていいじゃん」
「うううん、やってみる。明日だよね」
やるのかよー
マジかよー
次の日
朝早く出掛けていった彼女
俺は仕事は午後からだし…
よし!これでバッチリ
思いっきり変装してスタジオにこっそり侵入。
いつも来てるところだから、うまいことスタッフの中に紛れ込めた
「たぁーくや」
「うわっ、しっ、静かにしろよ。っんでわかんだよ」
「クスクス、そんなに千夏ちゃんのこと心配ー?」
「いやっ、別に俺は…暇だから」
「そうなんだぁ。っで、そんなおかしな格好すうするの?」
「ば、ばれたら、周りに迷惑かかると思っただけだ」
「そうねぇ。そういうことにしといてあげるわ。フフフ、でも、時間の問題よ。スターのオーラ出まくりだから」
「うるさいなぁ。もう、帰るよ」
数人のモデルの後ろに立って、いっちょまえにポーズをとってる彼女
どう見ても千夏ちゃんが一番輝いてる
それは俺の欲目とかじゃなくて、ここにいる皆がそう感じているはず
どこか淋しい気持ちになって、スタジオを後にした
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