第12話
「拓也、今日はピッチ早いなぁ。素直じゃないんだから」
「ん?拓也くんが素直じゃないって?」
「ハハハ、まぁ、いいや。千夏ちゃん、拓也、連れて帰ってよ。結構飲んでるみたいだから」
「うん、わかった」
「ねぇ、拓也くん、帰ろう」
「千夏ちゃん、翔と行かないの?」
「どっこも行かないよ。帰ろ?ね?」
「わかったよ」
店を出て、歩き出すと、千夏ちゃんが周りを見回し、困った顔してる
「拓也くん、私、離れてるね」
「別にいいじゃん」
「良くないって。皆チラチラ見てるよ」
「勝手にしろ」
俺はサングラスにマスクしてりゃ、そう、バレることはない
見られてんのは、千夏ちゃんだって。
深夜の路地裏
彼女の美しさは一際、目を引く
ほんと自分のことわかってないなぁ
少し離れて後ろから歩いてくる彼女
案の定すぐに変な輩に声をかけられた
「めんっどくせぇなー」
彼女の手を握って歩き出した
「だから、拓也くん、ダメだって」
「いいから、黙ってついてこい。手離すなよ」
足早で歩く俺に息を上げながらも、必死でついてくる彼女が愛おしかった
玄関を入ると一目散にキッチンに行く千夏ちゃん
「はぁ、はぁ、拓也くん、はい、お水」
「千夏ちゃんが飲めよ」
明らかに俺より喉渇いてるだろ
「うん、ありがと。ゴクリ。
ふぅー。拓也くん、今日はありがとう」
「翔、かっこよかっただろ?」
あんな嬉しそうにキラキラぢた目で翔を見て。
俺は男じゃないのかよ
「違うよー。こんな素敵な洋服着せてもらって。メイクまで」
「あー、そっちな」
俺は改めて見る千夏ちゃんの姿にドキッとした
「脱ぐの、もったいないなぁ」
「脱がしてやろっか?」
「ば、ばか、酔ってるの?」
「ばかって」
両手首を掴んで引き寄せると細い身体がふわりと胸にくっついた
焦って離れようとする彼女を離したくなくて、腕に閉じ込めた
「拓也…くん。やっぱり酔ってるよね?離して」
「いや」
「お願い」
抱きしめる力を緩め、手はそのまま頬を包んだ
「やめて」
「やめない。
俺って、軽い男なんだぁー。
まぁまぁいい女だとすぐやっちゃうの」
「嘘」
「嘘じゃないよ。そんな風に見えるでしょ?」
「見えない」
上目遣いに俺を睨みつける彼女をもっと困らせたくなって無理矢理キスしようとした
必死に逃げようと顔を背ける千夏ちゃんの唇を強引に塞いだ
「んんんっ」
胸を叩く彼女の手首を片手でおさえて、もう片方の手で身体を撫でる
暴れる足の間に膝を割り入れた
「や…めて…
こんなの…ほんとの…拓也くんじゃない」
悲痛な彼女の声を聞いた途端、我に返り、力が抜けた
「本当の拓也くんじゃないよ!」
「ほんとって?俺の何を知ってるんだ?
わかったような口聞くな」
「……優しい目して、笑うこと知ってる。
たった、それだけしか知らないけど、
拓也くんのあの目はこんなことする人じゃないってことわかるよ。
私にだって、それぐらいわかるよ!」
あんな風に大声出すんだ
ちゃんと、自分の気持ち言えんじゃん
俺、何やってんだ
アイツ……
震えてた
泣いてた
心が壊れてしまいそうだ
俺は久しぶりに涙が止まらなかった
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