第11話
拓也くんの部屋に来て1週間が過ぎた。
夏の日、うちに彼がいたのと同じだけの時間が流れた
ハードスケジュールで不規則な生活の彼とはほとんど顔を会わせることはなかった
私は毎日仕事を探しに出掛けた
いくつか、面接までいったけど、あの会社のことがトラウマになって、どこも信用出来ず、決めかねていた
あーあ、今日もダメだった
ベランダから見える東京の街
ひしめき合うように建ち並ぶビル
この何処かに私の居場所はあるんだろうか…
私はここに来るべきではなかったのかもしれない
そんなことさえ、思い始め、心が折れそうになってた
電話が鳴る。拓也くんからだった
「もしもし、千夏ちゃん?」
「拓也くん……グスッ」
「……っ、
今から出て来いよ」
「え?急にどうしたの?」
「いいから、前の店で待ってるからすぐ来いよ」
なによぉー
こっちの話も聞かないで。えっらそうに。
俺、いったい…
アイツが辛いんじゃないか、泣いてんじゃないかって、不思議とわかってしまう
今だって、絶対泣いてただろ
わかるんだよ、俺には。
どうしても、助けてやりたくなるんだよ。
「もしもし、翔?今から出てこれる?そっ、いつもの店な」
「拓也くん、どうしたのよー」
慌てて飛び出してきた彼女は軽くメイクはしているものの、洋服はダサい
「うーん、ダメだな。ちょっと来い」
タクシーに乗せていつもお世話になってるスタジオへ向かった
「恭子さん、こいつ、綺麗にしてやってよ」
「拓也ー、急に来て何なのよー。
まぁ、可愛い子ねぇ」
「頼むよ、また埋め合わせするから」
「わかったわよ。任しといて。なかなかのダイヤの原石じゃない。おもしろそっ」
「拓也くん、私…」
「いいから、いいから」
戸惑う千夏ちゃんの背中を押した
「拓也ぁーやっぱり、すごいよ!思った通り。いや、予想以上よ」
真っ直ぐな黒い艶やかなロングヘア
透き通るような白い肌に長い睫毛
少し手を加えただけで、一層輝きを増した
「拓也くん、何か自分じゃないみたい。おかしくない?」
「まぁ、いいんじゃない?いこっか」
「うん。
ありがとうございました」
「いえいえ、また、いつでもいらっしゃい。あなた、モデルさんでも通用するわよ」
「余計なこと言うなよ」
「はいはいー」
再び、店に戻ると、翔はもう着いてた
「拓也、呼び出しといて、いないって酷いだろ」
「悪りぃ」
「え?翔…さん?
拓也くんー、本物だよー」
俺の後ろに隠れて出てこない彼女
「千夏ちゃん、翔のドラマ観て泣いてただろ?
ファンなのかなぁって思って」
「拓也、めちゃくちゃ可愛い子じゃん。彼女?」
「ん?親戚の子。早く、千夏ちゃん、翔と話せば?」
「無理だよー」
背中にピタリとへばりついて、離れない
彼女の柔らかい感触を感じ、何故か俺は少し苛ついていた
「っんだよ、俺ん時と全然違うよな」
無理矢理手首を引っ張って前へ出した
ほんとは…
俺の腕の中に閉じ込めたかったのかもしれない
突き放すと
手を伸ばしてしまう
近付くと
躊躇ってしまう
普段より高めの声で楽しそうに話している彼女を見てると、落ち着いてはいられなくて、いつもより早いペースでアルコールを流し込んだ
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