第9話
拓也くんに言われた通り、かなりヤバイ会社だったみたい
退職願を出すと、案の定、今までのノルマを達成出来なかった分と言われ、結構な額を請求された
とにかく、早く辞めたかったし、揉めたくもなかったので、私は少しだけあった貯金をくずし支払い、無事、退職した
でも、次の仕事も決まっておらず、収入はない
毎日、仕事を探しにいくものの、何処をどう探していいのかわからず、途方に暮れた
光熱費がかからないようにと真冬に暖房も入れず、毛布にくるまって耐えた
半月が過ぎようとした頃
拓也くんから電話が鳴った
「千夏ちゃん、どうしてる?」
「元気よ。仕事もちゃんと辞めたし」
「今、家?」
「そうよ」
「電気ついてないけど」
「え?拓也くん、何処にいるの?私、い、今、帰って来たところなの」
「下にいるよ。開けて」
「うん」
ぜってぇ、また、嘘ついてる。
我慢してる
「拓也くん、こんなところ来ても大丈夫なの?私もね、今帰って来たところ。寒いねぇ」
「ふーん、そうなの。千夏ちゃん、出掛けてたのにそんな格好なの?」
明らかに部屋着の彼女
真っ暗の部屋で毛布にくるまって震えてたことぐらい、見りゃわかるっつうの
わざと明るく振る舞う彼女の腕を引っ張って抱きしめた
「きゃっ、な、何するのよ」
「変なこと考えてねぇよ。確認してんの」
「何を?」
「熱ないかどうか」
小刻みに震える彼女の痩せた身体は熱く、
抱きしめると安心したかのように、俺にもたれかかった
「たく…や、くん」
力が抜けていった彼女はそのまま、意識を失った
やっぱりなぁ
腕の中にすっぽりとおさまった華奢な身体を離したくなくて
力ない彼女を更に強く包み込んだ
抱き上げてベッドに寝かせ、エアコンのスイッチを入れた
おそらく、金ももう底をついたんだろうな
熱にうなされて意識朦朧とする彼女の目尻から一筋涙が溢れた
親指で拭うとうっすら目を開けた千夏ちゃん
「拓也くん…私…」
「いいから、眠れ。何か欲しいか?」
目を瞑って首を横に振った
「風邪…うつ…るから……帰って」
「お前なぁ、こんな時まで人の心配かぁ。
我慢して誰にも頼らず、一人で抱え込んで
どんだけ、頑張んだよ。
俺は帰んないよ。少し落ち着いたら、俺のとこ来てもらうから」
「いい」
「無理矢理でも連れていく。このまま、ここには置いておけない」
これ以上、話を続ける力のない彼女は静かに眠りについた
苦しそうに息をする千夏ちゃんの寝顔を見つめながら、ただ、純粋にあの柔らかな笑顔が見たいと思った
細い手を握りしめ、早く元気になれと祈りながら、その指をそっと唇に押し当てた
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