第8話
「千夏ちゃん、痩せたね。
今の仕事、辛くない?」
店に入るなり、心配そうに私の顔を覗きこんだ彼
「大丈夫だよ」
「大丈夫って顔してない」
「平気だって」
「嘘つくの下手だなぁ。顔ひきつってるから」
慌てて自分の頬を手でおさえた
「千夏ちゃんさぁ、頑張りすぎなんじゃない?」
頭をポンポンとされた瞬間
それが泣いていいよって言われてるような気がして、今まで3ヶ月我慢していた涙が一気に溢れた
「ごめんなさい、泣いちゃって」
「……いいよ、好きなだけ、泣きな」
泣き顔を見られたくないのか、並んで座った俺にくるりと背を向けて泣く千夏ちゃんが
弱々しくて、
壊れそうで、
抱きしめてやりたかった
でも、必死に強がってる彼女を見てると
そうしてしまうと、心が崩れてしまうんじゃないかって思った
震える肩を出来るだけ、見ないようにした
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あなたの声を聞いた瞬間
顔を見た途端
心が溶けていく
この気持ちって……
それは私にも彼にもきっと、まだ
わからない
胸の奥があったかくなった
それだけで…充分
【千夏】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
手を伸ばしたら触れられる温もりがあるのに
何故か躊躇ってしまう
こんな気持ちになったのは初めてだ
喉の奥の方で何かが騒いでるような不思議な感覚
彼女を見ているとそんな味わったことのない感情が俺の中で次々と生まれてくる
正直、戸惑っていた
【拓也】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
しばらく、泣いてた千夏ちゃんは急に振り向いて、笑った
「もう、大丈夫よっ」
大丈夫じゃないな、絶対
「落ち着いた?」
「うん」
「じゃあ、聞くけど、千夏ちゃん。こっちに来てから3ヶ月どんな生活してた?」
「どんな?って普通よ」
「普通ねぇ」
「う、うん」
「どんな仕事してるの?」
彼女は淡々と毎日のことを話し出した
辛いことも時には冗談混じりに…。
わざと明るくしてるの、バレバレ
「はっきり言っていい?その会社やばくない?辞めた方がいいよ」
「やっぱり…そう、だよね」
「すぐ、辞めてこいよ」
「それは出来ないよ。次の仕事、決まってないから、家賃も払えないし、たぶん、急に辞めると今まで達成出来てない分…」
「俺が払ってやるよ。今の部屋は引き払ってうちに来ればいい」
「そんなこと、ダメだよ。無理だよ」
「お金は返してくれればいいし、ずっとじゃなくて部屋が決まるまでいればいい。
俺だっていきなり行って世話になったんだ。同じことだろ?」
「でも…
とにかく、自分で何とかする。
また、必ず連絡するから」
「わかった。ちゃんと連絡すること」
「はい、わかりました」
よそ見しながら、返事した私の頬を拓也くんは片手でギュッと挟んで自分の方に向けた
「ちゃんと、目、見て」
「ふぁかりましたぁ」
「ぶっ、子供かっ」
もう、顔近いよっ
えっらそうに拓也くんに私のことなんてわかるはずないよ。
お金いっぱい稼いでる人にわかりっこない
そんな風に思いながらも、一人で踏ん張ってた私を後ろからそっと支えてくれるような彼の優しさが嬉しくて
また、泣いちゃいそうになるのをぐっとこらえた
注がれる眼差しがあまりにも真っ直ぐで
吸い込まれそうで
少し怖かった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます