第7話

9月になり、私の東京での生活が始まった


入社した会社は想像していたのとはかなり違っていた


面接ではにこやかに迎えてれた上司は一変して冷たくなり、社内の雰囲気も殺伐としていた


初日からいきなり地図を渡され、慣れない東京の街を1日中、営業に回った


月のノルマを達成出来ないと減給


話とは全く違う


この会社大丈夫なの?

日に日に不安と疲労が増していった


3ヶ月が過ぎた頃

もう限界だった

初めて会社を休んだ



昼過ぎに目が覚めた


こっちに来てから、1度もかけず、手帳に挟んだままになってた拓也くんの電話番号


たまらなくなって……かけてみた


コール音が1回、2回鳴る度に鼓動が早くなる……5回、もうダメ


出る訳ないかっ

芸能人だよ

電話番号も本当かどうか


あの1週間はいい思い出だったんだ


心身ともに疲れきっていた私はその日はうつうつ眠っては起きての繰り返し、電話の鳴る音で目が覚めた時にはもう、夜になっていた


寝起きで慌てて番号を見ずに取ると


「もしもし、千夏ちゃん?」


私の声を聞く前に話し出した声の主は紛れもなく、拓也くん


「拓也くん?どうして、私だってわかったの?こっちは番号言ってなかったのに」


「あー、この電話番号ね、親しい人にしか教えてないから。知らない番号からかかってきたから、千夏ちゃんしかいないって」


「そうなんだ」


「ごめんね、取った瞬間に切れてしまって、

すぐにかけ直そうと思ったんだけど、仕事がつまってたから。

……切り際に千夏ちゃんのため息が聞こえたんだ。だから、すぐにわかったよ」


「やだっ、ため息が?そんなのでわかるの?」


「俺、耳はいいんだ」


「……」


「そりゃそうと、千夏ちゃん、いつこっちに来たの?」


「9月の初め」


「何ですぐに連絡してこないんだよ」


「だって……拓也くん、忙しいでしょ。私も……忙しかったし」


「千夏ちゃん、仕事、忙しいの?」


「う、うん」


「……千夏ちゃん、今から会おうか」


「え、今から?でも、もう遅いよ」


「疲れてる?」


「うううん」


「じゃ、決まり!」


「でも、拓也くん、バレない?」


「大丈夫。知り合いの店だから。

今から迎えに行くよ。住所教えて」


「わかった」



久しぶりに聞く拓也くんの低い声がこっちに来てから、必死で背筋を伸ばして歩いていた固くなった身体をほぐしてくれるようで、嬉しかった


そんな気持ちとは裏腹に

東京での彼は遠く離れた違う世界にいる人のように思えて…


あの夏の日

星から来た人なんじゃないかって思ったことを思い出してた



手の届かない人だとわかっているのに…それなのに…

声を聞いてしまうと


どうしようなく、逢いたくて

逢いたくて


……逢いたくて







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