第6話

博さんが駅まで送ってくれると車を出してくれた


「お祖母ちゃん、由紀子さん、本当にお世話になりました」


「いえいえ、私達も楽しかったわ。また、いつでもいらっしゃい」


「そうだよ。ばあちゃん、待ってるよ」


「ありがとうございます」


「あっ、拓也くん、それとね

あつかましいお願いなんだけど、千夏が東京で、もし、困っているようなことがあったら、力になってくれないかな。ごめんね、向こうには知り合いがいなくて」


「わかりました。任せてください」



「拓也くーん、行くよ」


「はい、今、行きます」




駅までの車の中

博さんは初めは他愛ないことを話して笑ってたのに、だんだん、駅が近付いてくると

いきなり、真剣な顔で話し始めた



「拓也くん、若い頃はな、どうしても遠くの光ばかりが気になって、そこを目指そうと必死になるもんだ。

でもな、時には立ち止まって、俯く訳じゃないけど、自分の足元を見たり、周りを見渡したり、そういうことをしてみるのもいいんじゃないかな


俺もさ、昔は東京でいろいろあって…。

まぁ、今じゃ農家の親父だけどな」



「博さんも東京にいたんですか?」



「まぁなぁー、もう昔のことだよ。

また、来いよ。元気でな」


「ありがとうございます。

お世話になりました」




1週間前、この駅に降りた時

俺は何だかわかんないけど、心がザワザワしてた


普通に働いてた俺がオーディションを受け、あっという間に最終選考まで進み、デビューが約束された


次の日から目が回るようなスケジュール。

ついていくだけで、必死だった


とにかく、歌うこと

それが俺のすべてだと思って頑張ってきた


2年が経ち、歌うことだけでなく、違う表現力も求められてきた


新しいことへ踏み出すことに正直ビビっていたのかもしれない


でも、もう迷わない



お祖母ちゃんの笑顔

由紀子さんのあったかいご飯

博さんからの大切な言葉

そして、

千夏ちゃんの優しさを胸いっぱいにつめて

俺は新しい扉を開けようと思えるようになった




人の出会いって不思議なもんだ


偶然の出会いがこんなにも俺を強くしてくれるなんて。


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