第3話

拓也くんは次の日から、朝早く起きて、お祖母ちゃんと両親と畑に行った


帰ってくる頃に私は起きて、仕事に行く支度をする


白いTシャツとお父さんのヨレヨレのジャージを履いて麦わら帽子をかぶり、汗を流してる

そんな姿もやっぱりかっこいい


でも、まさかこんな田舎で畑仕事をしてるのが拓也だとは思われず、近所の人には親戚の子だと言い、出来るだけ出掛けないようにして過ごしてた


夏の終わり

昼間のうだるような暑さも夜には和らぎ、縁側に出ると風が少しひんやりとした


お風呂上がりにここで涼むのが私の日課


「もう、夏も終わりだね」


拓也くんが髪をバスタオルでふきながら、横に座った


「そ、そうですね」


「その敬語やめない?同い年だよね?」


「うん」


クスッと笑った彼が夜空を見上げた


「星、すっげぇ、見えるね」


「なぁーんにもないところだけどね」


「ありすぎても、何も見えねぇよ

結局は何もないのと同じだよ」



大きく息を吸い込んで吐き出すように言った彼が何を思っているのか、私にはわからず…

体のいい答えも見つからない自分がもどかしくて俯いた


その空気を変えるかのように突然、彼が明るい声で話し出した



「そうだ!お祖母ちゃんから聞いたんだけど、来月、東京に出てくるの?」


「あっ、うん」


「じゃあさ、東京に来たら連絡してよ」


「いいんですか?いやっ、あの、いいの?

連絡先教えても…」


「いいよー。こんだけ世話になったんだし。それに千夏ちゃん、俺の電話番号売ったりしないでしょ?」


「しないよ」


「だよな。目を見てればわかる」


わざとイタズラっぽく私の顔をまじまじと見る彼から目をそらした


「ハハハ、それよりさ、千夏ちゃん、25だろ?彼氏いないの?」


「いない」


「そっか、可愛いのにね」


「可愛くなんかないよ。

私なんか…話すのも苦手だし、一緒にいてもちっとも楽しくない」


「誰かにそう言われた?」


「言われてはないけど…

今まで付き合った人は疲れるって」


「ふーん、俺まだ千夏ちゃんのこと大して知らないから、わかんないけど…

別にしゃべんなくても、隣にいてくれるだけでいい、ただ、それだけでいいって思ってくれる人、きっと、いるんじゃないかな」



星空を眺めながら、静かに話す拓也くんの穏やかな横顔を見てると…

この人は、夜空に煌めく星から舞い降りてきた人なんじゃないかって、

おとぎ話のようなことを思わずにいられなかった



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