第2話

「ただいまぁ」


「博ぃー、びっくりするよー。スターを連れて帰ってきたよ」


「ばあちゃん、っんだよ、騒がしいなぁー。

えー!!!

お母さん、お母さーん」


「どうしたのよー、お父さん、えー、本物~?」


「皆、うるさいよ。だいたい、誰だかわかってるの?」


「わかってるわよ。ほら、あの千夏がいつもCD聞いてる、なんだっけ?

テレビで見たことある、えっと…た、た、たけし?」


「お母さん、違うよ、たくま!」


「もう、メチャクチャだよ。失礼でしょ」


「ハハハ、いいんです。俺もまだまだですよ。初めまして、拓也です」


「そう!拓也!!

ごめんねぇ、わかってたのよ」


「由紀子さん、今晩、拓也くん、泊めてあげるからね」


「お義母さん、ちょっと待ってください。テレビですか?カメラは?」


「そんなんじゃありません」


「拓也くん、プライベートなんだって。駅前で会って…」


なかなか、理解出来ない両親に説明して

やっと落ち着いたと思ったら、お母さんは布団はご飯はお風呂はと大騒ぎ


拓也くんはメディアで見る顔とは違って

どこかでフワッとして表情で…

家にいる時ってこんな感じなのかなぁ


ご飯の時も質問攻めの両親に彼は嫌がることなく、声を上げて楽しそうに笑った


よく、笑うんだ




「千夏、拓也くんを客間に案内してあげて」


「うん」


「どうぞ、この部屋を使ってください」


「突然、お邪魔したのに温かく迎えて下さって本当にありがたいです」


そう言って深々と頭を下げた


「いえ、皆、うるさくてごめんなさい。

ゆっくり休んでください」


「ありがとう。おやすみなさい」


「おやすみなさい」




通勤のカーラジオから流れた拓也の声を聞いたのはいつだっただろうか


優しく穏やかでいて、ちょっぴり、切ない彼の声に心引かれた


落ち込んだ時、拓也の歌声を聞くと不思議と前向きになれた。

幾度も彼の歌に救われてきた


そんな拓也がうちでご飯を食べて、隣の部屋で眠ってる


不思議な気持ちと興奮する気持ちがおさまらず、その夜は眠れなかった




「お祖母さん、おはようございます」


「おはよう。拓也くん、早いんだね。もう少し寝てていいんだよ。

ここのうちは、皆、畑に行くから早いんだ。寝てるのは、ちぃーちゃんだけ」


「いえ、何かお手伝いします」


「いいよー。お客さんなんだから」


「あの…お祖母さん」


「かしこまってぇ。ばあちゃん、でいいよ」


「じゃ、お祖母ちゃん。

…俺、ここに少し置いてもらってもいいですか?1週間でいいんです」


「なぁーんだ、そんなこと。

うちはいくらでもいいけど、拓也くん、仕事は?」


「しばらく、オフなんです。

ほんとは…海外に行ってることになってるんですけど」


「そんな悲しそうな顔しなさんな。

わかった。いたいだけ、いていいから。

息子夫婦には私から、うまく言っておく。

ばあちゃんね、口は固いんだから!

拓也くんのこと誰にも言わない。

ほら、笑って」


「はいっ、ありがとうございます」


「そう、それだよ。いい笑顔。

あー、ばあちゃんも拓也ファンになったよ」




「お祖母ちゃん、声おっきいよ」


「ちぃーちゃん、起きたかい?

拓也くんね、しばらくうちにいるから。

…ちぃーちゃん、そのかっこじゃ恥ずかしいよー」


「あっ、わっ」


慌てて部屋に戻った


しばらく?うちに?

毎日拓也がいるなんて

信じられないよー




俺は夢を見た

まだ、ボーカリストになってなくて、見知らぬ街を一人で歩いてた


遠くに一筋の光が見え、それに向かって進んでいくとだんだん眩しくなってきて、目を凝らした。

必死に先を見ようとしても見えない


そこで目が覚めた



外から蝉の声が聞こえる

そっか、俺、昨日ここに泊めてもらったんだ


ほんとは、すぐに帰るつもりだった

…けど、どうしてだろう


目まぐるしく流れる都会の空気に疲れてたのか。

ゆっくりと流れる時間が心地よくて。

太陽がいつもよりでっかく見えるこの場所に

もう少しだけ、いたいと…

そう、思ったんだ















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