第1話

大学を卒業し、地元の市役所に就職

毎日、9時から5時まで勤務し、真っ直ぐに帰宅


たまに、幼馴染みと食事して、彼とののろけ話を聞いて「そうかぁ、良かったねぇ」と答える


それが私の日常


付き合った人はいたけど、あまり長続きしなかった


"あなたなしでは生きていけない”なんてことを言う人の気持ちがよく、わからなかった




仕事を終え帰ろうとした時、出掛けていたお祖母ちゃんから、駅まで迎えに来てと連絡があった



私は昔っから、お祖母ちゃん子でいつも畑に行くお祖母ちゃんの後ろにくっついてた



「ちぃーちゃん(千夏)、疲れてるのに悪いねぇ」


「いいよ、いいよ」



田舎の小さな駅

夕方はいつもより行き交う人も多く

5時過ぎだというのに真夏の太陽はギラギラと照りつける



「もうすぐ、ちぃーちゃん、行っちゃうんだよねぇ。祐ちゃんも大学入ったし…。寂しくなるねぇ」


祐樹は私の弟

この春、県外の大学へ入った。

今は両親とお祖母ちゃんと私の4人家族



「お祖母ちゃん、それ、言わないでよ」


「ごめんごめん、ちぃーちゃんが決めたことだもんね。

……あれっ?ちぃーちゃん、ほら、あそこの人、派手な兄ちゃんだね、ここらじゃ、見ない人だよ」


「ほんとだねぇ、え!こっち来るよ」



その派手な兄ちゃんが車の横に止まり、会釈するので、恐る恐る窓を開けた



「あの、すみませんが、この辺りで泊まるところ、探してるんですが」


「泊まるところですかぁ、

駅前に一軒旅館があったと…。あっ、あそこです」


経営してるかどうか、わからないような古びた旅館を指差した


「あれ?まじっすかぁ」


不機嫌そうにサングラスを外した彼


はっと息をのんだ

何処かで見たことある



「え?た、拓也?

まさか、こんなところで」


彼に聞こえないように呟いた声にお祖母ちゃんが身を乗り出した


「誰だって?有名人か?テレビか?」


「しっ、お祖母ちゃん、声おっきいよ」


「ハハハ、テレビじゃないです。

休みがとれたので、プライベートで、あてもなく…」


「ほ、ほんと?本物?拓也…さん?」


「はい」


「へぇー、やっぱり、芸能人はイケメンだねぇ。泊まるところないなら、うちに来なよ」


「おばあーちゃん!」


「だって、部屋は余ってるんだし、兄ちゃん、イケメンだし」


「いいんですかぁ。ありがとうございます」


「いや、いいんですか?って、そんな簡単に一般の人の家に泊まっても、こっちがいいんですか?なんですけど」


「うーん、いいっしょ、内緒にしてくれます?」


「します、します~」


「もう、お祖母ちゃん!」




突然現れた芸能人

夢でも見ているようだけど、ルームミラーには鼻唄混じりに外の景色を眺めてる綺麗な横顔が写ってる


やっぱり、拓也だ





デビューして2年

1週間のオフ

何処でも良かった

とりあえず、出掛けたかった


まだ老若男女、誰しもが知る国民的スターには程遠く、サングラスをかける程度で電車にも乗れたし、店にも入れた


偶然、出会った人の家に泊めてもらうなんて、番組みたいで、面白いじゃん。

その時は、それぐらいにしか思ってなかった

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