神婚説話

僕の彼女はかなり変わってる。


まず、喋り方が古風だ。一人称は「我」だし、二人称は「ぬし」とか「お前」だし。語尾も「のじゃ」とか、いつの時代だよ!って言いたくなるような感じ。


次に、紅い。これでもかってくらい紅い。燃えるような赤髪に、赤基調の服。腰からは美しい尾羽が伸びている。


そして、火を操れる。いや、ガスレンジのコックを捻るとかそういうことじゃない。文字通り、自分の意思で自由に操れるのだ。火を知り尽くす彼女が作る料理はとても美味しいのだが、時たま朝に寝ぼけて火を出して、布団に火をつけるのはやめてほしい。


薄々気づいてるかもしれないが、僕の彼女は人じゃない。PC画面の中とかにいるわけでもない。

彼女は「神様」である。比喩ではない。文字通り、彼女は神様なのである。

僕の彼女は、ジャパリパーク南方守護神、スザク…のフレンズ。


なぜ一介のごくごく平凡な僕が神様である彼女と付き合っているのか。それは十数年前に遡る。



中学校に入学する前の春休みのこと。

僕は家族でジャパリパークに来た。

その時に参加したパークガイドツアー。そこが運命の分かれ目だったのかな。ツアーの参加客の中に、スザクがいたのだ。


「あ、あの!僕に…学業成就のおまじないをかけてもらえませんか!」


「はっ?」


僕の唐突な申し出にスザクは意表を突かれたみたいだった。


「その…今度から中学校入るんですけど…これからの勉強についていけるか不安で…」


「…………」


「あの、無理だったらいいんですけど…」


「………はっはっはっ!やはり子供というものは邪な心が無くて良いのお!よかろう、特別じゃ」


そういうと、スザクは僕に向かって何やら印を結び、呪文を唱えた。これがきっとおまじないなのだろう。


「…よし、と。まじないをかけてやったぞ。だがの、これで慢心して日々の努力を怠ってはいけぬぞ。このまじないはぬしの努力あってこそ力を発揮するものじゃからの」


それから、僕は努力した。自分にはスザクがついてる。そう思うと不思議と頑張ることができた。


それから10年ほど経ち、僕はジャパリパークに就職した。

そこでスザクと再会して、紆余曲折あったのちに今の同棲生活があるのだ。



前に一度だけ、スザクがこんな生活をしてる理由を聞いたことがある。一緒に街中を歩いている時だった。


「あの…どうして僕と何時もいっしょにいるんですか?ていうかどうして僕なんですか?」


「ふむ、そうじゃな。我も神である故、ヒトの願いには数多く触れてきたつもりじゃ。その中でもとりわけ多かったのが、『異性を自分のものとしたい』、要するに色恋に関するものじゃな。これだけは社会がどれだけ変化しようとも変わることがなかった。そして、この姿を手に入れてから、ふと思ったのじゃ。『ヒトがここまで熱意をかける恋愛とやらはどれほど魅力的なのか?』とな。まあ仮の姿とはいえ、我も女子なわけじゃし?そういう体験を一度はしてみたかったのじゃ」


スザクはそこで一呼吸置いた。


「何故お主と一緒におるか?簡単じゃ。穢れが少ない。もちろん人並みに煩悩はあるようじゃが、余計な欲がない。それに努力家じゃ。我は努力するものにしか力は貸さんからの」


そんなに褒められたことがあまりなかったので、すこし恥ずかしかった。

それよりも、スザクが僕を恋愛対象と見ていたことに驚いた。


「じ、じゃあ、手、とか繋いでみます…?恋愛だったらそういう事もしますし…」


勇気を振り絞ってそう言うと、スザクの顔が一瞬、驚いた顔で固まった。そして、次の瞬間には一気に赤く染まった。


「ちっ、違うのじゃ…そ、そういうつもりで言ったんじゃなぃのじゃ…」


そう言いつつも、スザクは僕の方に手を差し出した。僕はその手を取った。

すると、焼けた鉄板に水滴を垂らした時のような音がして。


「あつっっ⁉︎」

「ああああ⁉︎すまぬ!体温調整を間違えた!」


この件で僕は、不用意にスザクを照れさせると危険だということを学んだ。







「…を学んだ、と」


「これ!何を書いておる!我とお主のことは他言無用じゃと言うたじゃろう!」


いきなりノートが取り上げられた。

目の前にはスザクが立っていた。


「いやいや、職場の皆にはもう知られてるし!同僚から『四神の生贄』とまで呼ばれてるんだよ⁉︎」


「なっ…とにかくこのノートは焼却じゃ!」


ノートはスザクの手の中で呆気なく灰と化した。そして少しだけ、部屋の温度が高くなった気がした。

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けものフレンズ掌編集 かわらば @M-I-I-R

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