第10話~アルベルト・ガンマ

俺たちはユリスノースに向かうべく

馬車に揺られていた


戦に次ぐ戦いにさすがの俺も

疲れてきたみたいで、

猛烈な睡魔が俺を襲った


「俺寝るからさーついたら起こしてくれ」


「わかったよー」


俺は体を横向きにして

ゆっくりと目を閉じた







一面が濃い緑色に包まれた草原

俺はそこに座り、全身に気持ちのいい

風を浴びていた


「う~ん」


「しゅんたく~ん」


黄褐色の長髪を左右に揺らしながら、

小さな少女が俺に駆け寄ってくる。


「おう〇〇〇今日は何をする?」


俺の発したはずの声の一部分が聞こえない


「今日もケットウしようよ!」


少女が木剣を上下に振り回しながら

そんなことを言う


「え~また俺が勝っちゃうじゃん」


「そんなことないよ!

昨日お父さんに色々アバズレ

もらったもん」


「それを言うならアドバイスだろ~」


俺は少女を指をさしながら、小ばかにしたように笑う


「も~うそうやってすぐ馬鹿にする~」


頬をぷっくりとふくらまして

怒ったような表情を見せた


「よしよし~怒るな怒るな」


俺は少女の頭を雑に撫でた


「もう!許さない!ケットウ

だケットウ!」


少女は木剣をブンブンと振り回す


「しょがないな~よ~しやるか」


俺はお父さん教えられた中段構え

をした、何でも基本の構えらしい


「よ~しくらえ~!」


少女は突きらしき打ち込みをする


でも突きというにはあまりにも

ゆったりしていた


俺は突きをあっさりかわす


「へへ~どうんなもんだ」


「もう~どうしてあたんないの?」


「それは〇〇〇が遅いからだよ」


また俺の発したはずの声の一部が聞こえない

きっと俺は少女の名前を呼んでいる


「遅くないもん~」


しかし、なんて心地のいい気分なんだろうか

なんて温かい場所なんだろうか


「遅くないなら当ててみろよ~」


なんて楽しい場所なんだろうか


涼しい風が俺を突き抜け

和気藹々とした声が

俺を包んだ、こんな幸せが永遠

に続けばいいのと、俺は

強く思った、でも君の

名前が言えない聞こえない

とても大事な人の名前

一体君の名前はなんなんだ?


「しゅんた~」

俺の名前じゃなくて

「しゅんた~」

だから違うって」

「俊太!!」


「だから違うって!!」


「お!びっくりした!

もう着いたよ、なんか夢でも

見てたの?」


俺は辺りを見回す

あたりは日が落ちすっかり暗くなっていた

すぐ近くに見慣れない町の明かりがあった

どうやらかなり寝ていたらしい


「夢か・・・そうだな夢みたいな

夢を見ていたよ」


「ふ~ん」


健太は興味なさげに返事する


あの夢は何だったんだろう?

とても懐かしい夢に感じた


「よ~し宿に向かうか」


俺たちは馬車から降り

代金を支払い町に向かった




◇◇◇



「う~ん、いい血の匂いだ~」



男は剣に付いた血を鼻に近づけ

花の香りをかぐように

血の匂いを鼻に吸い込んだ



「ま・・・待ってくれ金はいくらでも出す」


小太りの男は、腰をぬかしていた

無理もない、もうすぐ自分の番が回ってくるのだから


周りは刺殺体に囲まれていた

その刺殺体は、小太りの男が大金を払って

集めた冒険者たちだ、数にして

28人、中には二等冒険者が10人も含まれていた

にもかかわらず、男に傷をつけるどころか

障壁を破ることすらかなわなかった



「俺は金なんかほしくはないんだ、

強者を呼んで来ればよかったんだ、

俺をたぎらせるそんなやつをな」


男の名前はアルベルト・ガンマ


「わかった!わかった!呼んでくる!

だから殺さないでくれれえええ」


小太りの男は命欲しさに叫ぶ


「だめだお前をもういい、一等冒険者

すら連れてこないとは、私もなめられたものだ」


小太りの男の喉に剣先を突き立てる


「やめてくれれえええええ」


「ふん!」


男は剣に力を籠め

喉を貫いた


「ひゅふうううう」


声にならない声が漏れ

しばらくして絶命した


「ふ~ん今日はつまらなかった」


男の異名は刺殺王

長身細身で目は鼠色

髪は短髪の白髪

顔は30代と思えぬほどに

しわにまみれていた


男にとって殺しなど、どうでもよかった

ただ強者と戦いたかった

己の血をたぎらせる奴との

戦いがしたかった


男には剣技の才能がなかった、

それを認められない男は

必死に努力した。

常人がおよそやり遂げられない

ような荒行にも耐えた。


そしていつしか男は

今まで勝てなかった、

いわいる強者にも

勝てるようになっていた。

男はそれがとてつもない

快感だった。


そしていつから男は

戦いに囚われていった。


3年前男は決闘の場で人を殺した。

その時ある快感を覚えた。

命と命の取り合い

そこから生まれる生存本能

脳内麻薬、そして血が沸騰するような

心の高ぶり、命を取り合わない

ただの戦いでは感じられなかった

快感に男は変貌してしまった。


金持ちに対して殺人予告をだし、

そしておびえた金持ちは

金で凄腕の戦士を雇う。

そして男が快楽のために戦う

男が何度も繰り返してきた

強者と戦う方法。


そんなことを繰り返すうちに

男は、四大悪人と呼ばれ

刺殺王の異名をつけられた。


「つぎはユリスノースか~どんな奴が待っているのかな~」


男が鼻歌交じりで歩き出す。

快楽ために男はユリスノースに向かう

新たな強者の血を求めて。

命の取り合いを求めて。




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