蛙と山鳩
「さあ、もう泣くんじゃないよ。 ええと、あんた……」
「わたし、ハツです」
「ハツね、ハツ。さ、“くさべの
さきほどの、変わったうたを
「あのう、それですけど、」
ハツが赤い目をこすりこすり、聞こうとしたときです。頭のうえから、なにかふたつの羽ばたきがおりてきました。
それは、さきほど
「ででっぽう。
「蛙さんや。
黒い目をくりくりさせて、くちばしを
「ああ、うるさいのがきたねえ」
蛙はハツの足のうえで、ちょっと
「この子は人間だよ、迷子だよ。
山鳩に、迷子に、女精さんに。聞きたいことはたくさんありましたけれども、山の生きものに囲まれて、ハツはただ顔を右にやったり左にやったりしながら聞いていました。
「そうしたら、つぎの日の出を待たなくちゃ。で、でっぽう」
「人の子だって。
「ああ、やかましい。わたしらは今から露さん探すんだから、もう行っちゃくれないか」
ぴょっと
ハツは、
春のかげが落ちる緑のなかでは、ひと
「ああ、ツヅミグサがある。こィはニンドウ。こィは……」
「あらあら、ただ小さいばかりと思っていたら、よく知っているんだねえ」
手を伸ばした葉のうえに、ちょうど蛙が休んでいましたので、ハツは笑ってしまいそうになりました。
「へ。みんな山んことは、ばっちゃんが、うたって教えてくれなったです」
「そうなの。それで入ってこられたのかしら。山を知るということは、自分も山になるのと
なんだか
「あのう、さっきの、山鳩の」
「あんなのは気にしなくっていいんだよ。悪い鳥じゃないんだから」
言いながら蛙は、草に浮いた露を舐めとっています。桃いろの舌が、ちろちろ甘そうに出たり入ったりしました。
「ここの露は
はあ、とハツは返事をして、ハルヨモギのひかる露に
「それであの、
露を舐めながら、ハツは聞きました。
「あれは人じゃあないよ。もともとは山のもの、
「じゃ、ここはどがん……」
「しっ。むかえが来たね。ごめんね、もっと教えてやりたいけどさ」
もう
「ハツ。きっと帰れるからね。だからすこうし、
いつの間にか
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