山吹の話

ハツの草つみ

  こィは つみましょ カントリソウ

  おらが こどもの かんとっけん

  こィも つみましょ ナガヨモギ

  いつでん どこでん ゆっけん

  そィは よそさん ギョセイソウ

  くそう おらすが ようくけん……


 ま昼の山に、ハツの声は、あかあかとひびいていました。ハツのばっちゃんがまだ生きていたとき、ここらあたりでなんべんもうたった草つみのうたです。

 ハツには昔からとっちゃんも、かっちゃんもいませんでしたから、いまは四人の妹たちと、ずえにある家にらしています。

 みんなが冬のさむさを忘れかけたぶんに、こうして薬草をつみにくるのが、ハツの楽しみな仕事のひとつでした。

 ばっちゃんが使っていたかごは、大きくなりきらないハツのかたをおおうほどでしたが、それがまた自分をひと回りも、ふた回りも、おねえさんに見せるように思えて、むしろ足はかるくなるのでした。


 今日もいかげんに草をつみつみ、山のなかはらくらいまでやってきたところです。

 そよぐみどりの向こうあたりに、ひかるものが見えたので、ハツは顔をあげました。それから、わ、とひとり言葉がもれました。

 「きれいかとのきよるう」

 段々だんだんになった、ななめっつらのところに、まばゆいはなが咲いています。お天道てんとさまが降りたったような、んだ金いろです。

 さあ、いままであったかしらと思わないでもありましたけれど、あんなにきれいだもの、つんで帰ったら妹たちがよろこぶにちがいない。それに自分も、もっと近くで見てみたいような気がするのでした。


 ななめっ面を、すこしとおまわりしてから、器用に段々のところをおりていきます。目指す木のしたまでいくのは、そう大変なことではありませんでした。

 近くで、ますますまばゆくなるのは、ハツも知っている山吹やまぶきの花でした。

 背かごはもとの場所へおいてきてしまったので、持ちきれるくらいで、つまなければなりません。みっつか、よっつか、考えながらばした手のうえに、ぺたっと、なにかがふってきました。

 「ぎゃっ」

 おどろいたハツでしたが、それくらいは草つみをしていれば当たり前のことです。むしろ、それがかえるだとわかったときは、なんだと思ったくらいでした。

 それで枝にもどしてやろうとすると、その蛙がころころ口を聞いたのです。

 「ばかな子だね、こんなとこに入ってきて」

 「えっ」

 「はやくかえりなさい、帰りなさい」

 よく見ると、蛙はちいさな目をつりあげておこっているようです。

 「はあ、すいません。わるかとは思うたばってん。すこっしもらうだけやっけん」

 「そうじゃないんだよ、ばかだねえ、はやく帰るんだよ」

 ハツは口ごもりました。相手は蛙ですのに、なんだかお高いような言葉なので話しづらいのです。

 「あ、もうだめだよ、ほんとにしかたないねえ」

 あっと思うまに、蛙は手からねて、ハツのふところへと入りました。

 それと同時に、うしろからハツの肩をつかむものがあります。そうして、めちゃめちゃにしゃがれた声が吹きかけられました。

 「こりゃどこン泥棒どろぼうじゃろね。ひとンがたで勝手しよって」

 すごい力でふり向かされると、きたない白い毛のもじゃもじゃした、おばばが立っていました。ハツよりもずっと大きくて、ほね丈夫じょうぶそうなお婆です。

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