湯器と着物
さて、それから枝葉がさえぎる雨粒も、ぱたぱた頭上に
――暗くなりましたなあ。あとどのくらいで着きますか。
「もうですよ」「すぐですよ」「そこですよ」
答えが一度に返ってきまして、ひとつも聞き取れませんでしたが、ふたたび
「こちらです、
一番手が言うと、あとのふたりはささ、と頭をさげて別なほうへ歩いていきました。
――あの方たちはいいのですか。
「ええ、よろしいんです。湯と着替えを持ちにいったんです」
ほう、と
におう傘をやれやれと
――不思議なあかりですなあ。まるでこの国の、いえ、この世のものではないような。
先生がわざと息をためて聞くと、
「おお旦那、お目が高い。そうなんです。これは、ここいらでは
そんな
「湯をお持ちしました」「着替えをお持ちしました」
先ほどのふたりが
とうとうきたな。どう化かしてくるものか――
いつ気が付いたのやら、
「さ、さ。旦那。足湯は、お好きではありませんか」
などと、どこかお
先生があやしんでそばまで寄ると、その
不思議なことには、抜けるところもない器から、それがちっとも
おまけに浮いている香草のかおりで、湯気だけですっきりするような感じがしました。けれども、すぐに足を出す気にはなりません。風呂だと思いこんで
先生はもっともらしく咳払いをして言いました。
――なるほど、変わった
「なにも
三番男が片手を突っ込んで湯をかき混ぜます。器の底が真珠のようにひかり、なんともいえない美しさです。これを見て、先生はとりあえず「肥溜めではない」と決めました。
しかし着物はどうかしらん――
差しだされたものを、かざしたり伸ばしたりしてみます。着替えたと思ったら、実は素っ裸だったなんていうのは、本当によくあることなのです。先生はまったく手堅いお方です。
――これも立派なものですね。ですが、私はこういう
「なにも遠慮なさるこたありません。着てみれば、存外
二番男がすかさず答えて、もう押しつけるみたいにして、みんな
「ではごゆっくり」「お好きなように」「お済みになりましたら、これでお呼びください」
ひとりが最後に指していったのは、すぐ横に下がる古びた木魚でした。
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