光れや尾っぽ

 それでようやく、こどもたちもひとり、ふたりとヨシの林を出てその周りに集まりました。

 黄金きんいろの尾っぽをまじまじと見たり、次々とヨシのりかたを教えたりします。

 「穂はね、ふっくらしていて、やわらかいのがいいんだよ」

 「ちょうどきつねさんの尾っぽみたいに」

 「でも、毛をむしるんじゃなくて、もっと下からとるんだよ」

 「それから蜘蛛くもの巣がかかっているのはだめ。綺麗きれいだけれど」

 子ぎつねは、どれもこれもうれしそうに聞いています。それから、

 「じゃあ、ぼくやってみる」

 ひとつ伸びをすると、四つの足で立ちあがりました。

 「うん、やってごらん。やってごらん」

 こどもたちも一緒になって、ちぢこまったからだを伸びやかにするように腕をあげて、原を駆けだしました。

 みんなが飛び跳ねて、穂をひとつみ、ふたつ摘みとするたびに白金しろがねの音が響きます。

 やがて歌が得意なものは調子を合わせて歌いだし、踊りが得意なものは、くるりくるりと回りだします。


 シャランとおっ立て

 きつねの尾っぽ


 おっ立ておった

 穂の尾っぽ


 日ふりゃ金

 月でりゃ銀


 シャランとおっ立て

 光れや尾っぽ


 原じゅうが歌ごえと笑いごえでいっぱいになるころ、そのよろこびをひと房に束ねたような輝く穂が集まりました。

 ひとりのこどもが、子ぎつねに寄りそってささやきます。

 「ねえ、あんなに立派りっぱな穂、見たことがあるかい」

 見ると、原のすみの茂みから、子ぎつねによく似た、けれどももっと大きな穂がそびえています。

 そうです。こんどはもう間違えて飛びついたりはしません。

 「母さんだ。ぼく、もう行かなくちゃ」

 子ぎつねは尾っぽを立てて、こどもたちを見回しました。まだ踊っているような明るい顔でした。

 「小さなみなさん、ありがとう。ぼくたち、これであたたかな冬を過ごせるよ」

 「どういたしまして」

 「とても楽しかったよ」

 「きつねさん、お元気で」

 穂の束をくわえた子ぎつねは何度もなんども振りかえり、ついに茂みのなかへと飛びこみました。大小ふたつの尾っぽが、さようならをするように揺れながら山の奥へと見えなくなっていきました。


 それをすっかり見送ってから、こどもたちは浮きあし立ちました。

 「ああ、どきどきした」

 「新しい友だちができたね」

 「いいきつねだったからよかったんだよ」

 「だれだって、着るものや食べるものを探しているんだね」……

 そのなかを、ようやく兄さんが進みでて声を張りあげます。あの子ぎつねと同じような明るい声でした。

 「じゃあ、ほら、静かにしてごらん。みんな無事でちゃんといるね。それなら、ぼくたちももう出発しよう」

 年上のものが、間違いのないようにみんなのすがたを確かめます。

 「帰り道では、せっかくの穂を落とさないように気をつけること。ついてこられないものは、すぐに言うこと。それから最後に、きちんと原にお礼をすること」

 兄さんのかけ声で、さっと動いた陽光ひかりの粒が一列に並びます。どのこどもも、腕には穂のおみやげを抱えています。

 「きつねの尾の原、山あいの原、ありがとう」

 「どうもありがとう、また来年」

 みんなが順々に頭をさげて、きたときと同じように道を駆けだします。シロガネヨシはその後ろすがたに、いつまでも、シャラン、シャランと穂を振りました。


 山にかかるお日さまは、もうその衣を変えはじめ、辺りはほのかな夕の色です。昼間の温もりをたっぷりと吸いこんだ穂が、こどもたちを包んで風になびきます。

 木々のあいだにいくつもの光の波が走っていくのを、北の高山が、やはり静かに見守っておいででした。


(おしまい)

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