黄金いろの穂

 空ではお日さまが、そろそろ天辺てっぺんをすぎるころになりました。兄さんと弟妹きょうだいとは、穂をそれぞれにひと抱えも集めて歩きました。

 「みんなどうだい。もういい具合に集められたかい」

 兄さんが原じゅうに尋ねると、あちらこちらから答えが返ります。

 「もうだいぶですよ」

 「こっちもいいよ」

 なかには、あたたかな穂をからだに寄せてねむりにとろけそうなこどももいます。

 「眠るのは帰ってからにしろよ。そんなだと途中とちゅうで転んでしまうよ」

 だれかがあきれるそばで、ある組のこどもが言いました。

 「ねえ、あんなに大きな穂、見たことがあるかい」

 見ると、原のすみの茂みから、ふっとりとした穂がそびえています。そばに寄ると見上げるのが大変なほどです。

 「なんだかゆらゆらしているけど、変じゃないの」

 「よしなよ。あんまりすみへいくと怖いよ」

 「平気さ。少しむしってみるだけだから」

 ほかのこどもが止めるのを、ひとりが茂みの葉を階段にして、身軽く近づいていきます。

 ほかのひとりは兄さんを呼びにいきました。

 「なんて綺麗きれい黄金きんいろだろう。ふっくら、みっしり生えているし、きっと温かいよ」

 こどもは穂に飛びつくと、その毛をひとつかみして、うんと引っぱりました。

 すると穂はおどろいて――なんと、茂みのなかから、ひとっとびに飛びだしたのです。

 「あっ、きつね」

 悲鳴のような声があがりました。

 こどもたちのなかで素早いものは穂を放りなげて、またたく間にヨシの林のなかへとかくれます。走ってきた兄さんが遅れたものを自分の後ろへとやりました。


 飛びだしてきたのは子どものきつねです。みんなが息をひそめるなかで、ぐるりぐるりと回って自分の尾っぽを確かめています。

 やがて立ちどまると照れくさそうにひとりごとを言いました。

 「なんだあ、のみじゃない。のみじゃない」

 それから原へと伏せると、かしこそうなふたつの目で兄さんを見て、ちょっと笑いました。

 「こんにちは。小さなみなさん」

 「ええ、こんにちは。きつねさん」

 兄さんが精一杯に胸を張ってあいさつを返します。一番年上で一番大きな兄さんですが、子ぎつねは見上げるほど大きなからだです。

 「驚かせてごめんなさいね。おしりが急にかゆくなったから、のみかと思っちゃって」

 地面にさげられたその尾っぽから、こどもがいおりました。ふらふらしながらも近くのヨシへと隠れます。ほかのこどもが、それを抱きしめてやりました。

 兄さんはほっとして、

 「ごめんなさい、急に毛を引っぱったりして」

 「もういいんだよ。それより、ぼく見とれちゃっていたから。きみたち、とても上手に穂を集めるんだもの」

 子ぎつねがうっとりと息をつくと、原の草全部がサラサラ鳴ったようでした。

 「ねえ、きみたち毎年くるのかい」

 みんなのようすを気にしないふうに、子ぎつねは気さくな声で聞きます。兄さんが、そうです、と答えます。

 「どうりでね。ぼく、今年はじめてきたんだよ。母さんに言われてさ」

 そこで兄さんはたずねました。

 「きつねさん、おひとりですか。お母さんはどこにいるんですか」

 「その辺りだよ。ご飯を探してくれているんだ。ぼくの代わりにね」

 言いながら、子ぎつねは少しうわの空になって、もじもじしました。ふたりを見守っているこどもたちは、ヨシの林や、兄さんの後ろからおそるおそる顔をのぞかせています。

 「あのう、ヨシの穂をね。冬じゅう寒くないように床にくんだって。それでとりにきたんだけど、なにしろ初めてでね」

 子ぎつねは一生懸命、なにかを言おうとしています。

 「友だちはみんな、だんだんおもてへは出なくなるし、母さんも忙しそうだし、ぼく、ひとりではさみしいって思っていたんだ」

 「うん、うん。そうですね」

 もじもじと子ぎつねが前足をこするのを、兄さんも一生懸命になって見ています。

 「でね、そのう、よかったら、ぼくにも穂のとりかたを教えてくれないかな。どうかなあ」

 「もちろん、いいですよ」

 兄さんは自然とにっこりしました。からだの光がふんわりあたたかくなって、もう身がまえたりはしませんでした。

 子ぎつねはとても素直でしたし、寒い冬を越えるのは、山の辺のものならだれでも当たり前のことです。

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