第三章、その四
「確かに数千数万にも及ぶ過去の名勝負の棋譜や常に進化し続けている主だった定跡をすべて記憶し己の血肉とし、無限とも言える対局の行方の分岐を余すところなく
は?
「……そりゃあ一応は同じ小説家として、ミステリィ小説作成が世界そのものの創造のようなものであるというのは何となく理解できますけど、だからといってそれがゆえに僕の作品が現実化してしまうことになるなんて、話が飛躍しているのでは?」
「だからそのためのあなたの『作者』としての、事件関係者全員の自作への──すなわちミステリィ小説関係の知識や情報に特化された集合的無意識への、強制的なアクセス能力なのですよ。これによってこそ、小説の現実化といった超常極まりないことが、
「なっ。小説を現実のものとしながら、
「ええ。先ほども申しましたが、小説内で描かれた世界も将来にわたって実現し得る『無限に存在し得る未来の可能性』の一つなのであり、可能性の集合体たる集合的無意識の中にちゃんと含まれているからして、『作者』の力によって強制的にアクセスさせられている事件関係者たちは、あなたの自作そのままの夢を見ることになるのですが、その中に描かれている『登場人物』としての自分──いわゆる『小説の中の自分』として完全になり切り行動していくことによって、その記憶が脳内に鮮明に刻み込まれることになって、あなたがある『登場人物』に殺害行為を行わせるように小説を記述した場合は、当該事件関係者も本当に殺意を抱くようになり、目覚めた後の現実世界においても殺害行為を実行し、小説の内容を現実のものとしてしまうといった次第なのです。とはいえ、もちろんこれはいわゆる暗示効果や催眠効果の域を出ず、ぶっちゃけ『睡眠学習』のようなものでしかなく、絶対に夢の──すなわちあなたの小説の通りに行動することになるとは限りませんが、それならそれで構わないのです。何よりも大切なのは、夢を通して殺意を芽生えさせる等暗示をかけることによって、あくまでも
「……何よりも大切なのは、可能性を高めることって」
「そもそも『小説に書いたことが現実のものになる』なんてことは、
──‼
「……いやでも、何で僕がそんな大それた力を持っているわけなのです? ──ていうか、そもそも事件関係者全員に同じ夢を見せるなんて、どう考えても不可能なのでは?」
「それについては最初にもちらっと申しましたが、おそらくあなたも私たちの一族同様に『夢の中の自分』を中心として、『目覚めた後の現実世界の自分』と特殊な形でシンクロできる力をお持ちだからですよ。ただし我が一族の予言の巫女たちが『夢の中の自分』を中心にして量子論における『重ね合わせ』現象に則る形で、無限に存在し得る『目覚めた
は? 僕が今や、この世界の『作者』になっているだって⁉
「ただし『世界の作者』であられると言っても、ただ単にあなたが小説の記述を書き換えたり書き加えたりするだけでこの現実世界を現在過去未来にわたって思いのままにできるようになるなんていう、まさしく『おとぎ話の中だけに存在し得る何でもアリのエセ神様』となられているわけではないのです。何せうちの一族の未来予測能力の仕組みの説明の際にも述べましたけど、そもそも『どんな夢でも正夢となる可能性があり得る』のですから。それというのも夢の中で
「……た、確かに。一応は似たような内容になっていますが、何から何まで一緒というわけではないです」
「つまり小説の現実化といっても、十分現実的出来事の範疇に収まっているということなんですよ。言わばあなた自身もこの世界の『作者』とかという以前に、ただ単に『夢の中の自分』とシンクロしているからこそ、世間一般に普通にあり得る『夢が正夢となる』効果を
──っ。やはり、そうなのか? 僕には不幸な予言の巫女である
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