第7話 空は茜色に染まり、そして

 こうして僕はサラと結ばれ、晴れて奇跡的に元の体に戻る事が出来た。映画はあの後に何シーンかを追加して完成し、単位をもらえた。『ピュアとエロが融合した稀有な作品』として評価され、一躍有名になった。動画配信のP Vが300万再生を超え、僕は一躍人気のユーチューバーになれたのだ。


 だがしかし


 あれからサラは去って行った

 もうどこにいるかもわからない

 携帯も解約してしまったのか

 連絡手段も失ってしまった


 今も別の女優を起用して作品を撮り続けているが

 心のどこかにポッカリ空いた穴は塞がる気配を見せない


 あの時どうすれば良かったんだ?


 僕とサラがちゃんと正面から向き合って

 ちゃんと心から愛し合っていたのなら

 もっとまともなラストシーンが描けたのでは無いだろうか?


『若気の至り』と人は言う


 だが、それでは決して許されない何かも確かに存在する


 何かとても大切な宝物を見つけた途端に失くしてしまった様な喪失感


 この感情からは一生逃れる事は出来ないだろう


 僕はいつもの河川敷でマウンテンバイクを芝生に置き


 夕陽に向かって静かにブルースハープを吹く


 晩秋のそよ風がススキをたなびかせている


 サラ


 サラ


 僕は取り返しのつかない過ちを犯してしまった


 もしも許される事があるのなら、


 僕はこの身の全てを投げ捨てる覚悟だって出来てるのに・・・


「それってホント?」

「っ!? サラ?」

「へへーん。そんなに私が恋しかったんだ?」

「今までどこに行ってたんだよ?」

「実家に帰ってママと仲直りした」

「どんだけ探したと思ってんだよ!」

「まあまあ、こっちにもいろいろあったって事で」

「それで、サラは僕を許してくれるのか?」

「それはシム次第かなあ」

「どうすればいい?」

「どうすればいいと思う?」


 サラは目を閉じ、そっとその顔を僕に寄せて来る


 頬が茜色に染まっているのは

 決して夕陽のせいばかりじゃ無いだろう


 そして僕は

 唇をそっとサラに重ねる


「大変よく出来ました。ふふっ」

「何だよ?」

「いや、何でも無いの」

「変なヤツ」


 僕はサラの方をぎゅっと抱きしめる


 その柔らかな・・・、柔らかな?


 何だ、このゴツゴツと骨張った感触は?


 僕は慌ててサラを引き離してまじまじと見つめる


「う、嘘だろ?」

「う、嘘よね?」


 なんてこった

 また身体が入れ替わっている!


「あーあ、結局こう言う運命なのかしら?」

「なんか、そうみたいだな」

「ねえ、もう一回キスしない?」

「やってみるか」


「あ」

「お」

「戻ったね」

「そうだな」


「じゃあさ、もう一度キスするとどうなるのかな?」

「やってみようぜ」


「お」

「あ」

「また入れ替わったね」

「そうみたいだな」


 僕とサラはお互いに肩を掴んだまま、真っ直ぐに見つめ合う


「ねえ、これってさ。私たちは一生キスしなければいいって事かな?」

「いや、もう一つ方法があるだろ?」

「そうね」

「じゃあ」

「私たちはこうして、一生キスをし続けましょう?」


おわり

 

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君と風を切って走った日々 駿 銘華 @may_2018

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