第4話 ポイント・オブ・ノーリターン

 遮光カーテンの隙間から、眩しい光線が差し込んでくる。


「あれ? ここは??」


 ゆっくりとベッドから起きて周りを見渡す。見覚えの無い部屋だ。そうだ、僕はあの時にサラと身体が入れ替わって、あの後どうしたんだっけ?


「ん? 起きたのか?」

「うぉっ! 誰だよ!?」

「サラ、どうしたんだい?」


 ベッドの隣には見知らぬ中年男性が横たわっている。しかも裸で! ってゆーか、僕も何も着ていないっ! やっべ。これってもしかして、いやもしかしなくてもアレだよな。そしてコイツは間違いもない・・・


「パ、パパ?」

「どうした。悪い夢でも見たのか?」

「そ、そうみたい」


 ど、どーすりゃいーの。コレ?


「んー、腹が減ったな。サラ、何か作ってくれないか?」

「う、うん。いいよ、パパ」


 ゴソゴソとベッドを抜け出し、その辺に脱ぎ散らかしてあったサラのものであろう下着やスェットをいそいそと着込むと、キッチンに向かう。冷蔵庫を開けてみるが、あんまり食材は入っていない。


「か、カップ麺でもいいかなー?」

「お、それでいい」


 なんだなんだ。ずいぶん上目線のオヤジだな。まあ、あんな高い自転車をポイポイ買い与えたり、こんな良いデザイナーズマンションっぽい所に囲っているんだ。このオヤジはきっと一流企業のリーマンかなんかに違いない。


「何なら宅配のピザでもいいぞ」

「そ、そうね」


 壁掛けのシュールな時計を見ると時間は午前11時30分。ピザ屋も開いている時間だろう。キッチンに置きっぱなしだったサラのスマホで宅配アプリを開くと、注文履歴からピザを選択してオーダーする。


「25分で来るってー」

「そうか。いつものヤツか?」

「そーだよー」



 あれ? 何か後ろから気配が。


 むぎゅ


 いきなり胸を鷲掴みにされた。


「いやっ、ナニするの? やめてよねっ!」

「何だよ、昨夜はあんなに激しかったのに」

「今はそう言う気分じゃないのっ!」


 サラの野郎、お楽しみだったのかよ。しかし、不覚にもちょっと感じてしまったんだよな。これがオンナの感覚ってやつか。


「ピザ食べ終わるまではオアズケだよーん」


 僕のブリブリブリもそろそろ限界だ。何とかしてこの場を切り抜けなければ。



 プルプルプル


 サラのスマホが鳴っている


 あ、僕からだ


 プッ


「もしもし、シム君?」

「シム君? 今どうしてるの?」

「ちょっ、待ってて」


「パパ、お友達から電話。ベランダで話してもいい?」

「ん」


「どーもこーもねーだろ!? 今お前のパパと一緒にいるんだぞ?」

「えっ? まさかっ! 私の裸、見たんじゃないわよね」

「そんなの不可抗力だろーが! お前のおっぱい、結構デカイんだな」

「このスケベっ! それ以上触ったら絶交だかんね!」

「そっちこそ、僕の身体にヘンな事してないだろーな?」

「そ、それがね。朝から股間がいきりたっちゃって、夢精しちゃった」

「ば、バカじゃねーの! ちゃんと寝る前に抜いておけよっ!」

「だ、だってやり方知らないからしょーがないじゃないっ!!」


 こりゃあ、先が思いやられるな


 ***


 パパとピザを食べ終わったら、『撮影の約束があるから』と言って部屋を抜け出した。とりあえず僕のアパートに帰って、これからの対策を練らなければいけない。


「ピンポーン」

「はーい」


 ガチャ


 自分の木造ボロアパート部屋ではあるんだが、何だか違和感が拭えない。


「シム!」

「サラ!」


 それからしばらくの間、僕たちは6畳間のちゃぶ台で向かい合って話し込んでいた。


「なんかさ」

「何よ?」

「さっきから話が堂々巡りしてるよな」

「仕方がないじゃない。こんな体験した事ないんだから」

「それはそうだが」

「にしてもシムの部屋、何でこんなにイカ臭いの?」

「ほっとけっつーの。サラの部屋だって○ン汁臭かったぞ」

「さいってーっ!」


 すかっ


「同じテは二度と食らうかよ」

「ちょっと、避けないでよね」

「無理言うな。それにこれはサラ、お前の身体なんだぞ?」

「う。それもそうね」

「とりあえずさ、何か参考になる映画でも見ようか」

「と言うと、やっぱアレ?」

「まずはアレだろ」


♬ボクら何でもないや〜♬


「まあ、これはあくまでも作り話だしな」

「あまり参考にはならなかったわね」

「次、見るか?」

「そうね」


♬変わらないものを〜♬


「って、何でタイムスリップ物なのよっ!?」

「いや、これはこれでいいだろ」

「イミわかんない」

「とりあえずチャリで2ケツは鉄板だな」

「ますますイミフ」

「んじゃ、次行くか」


♬フォエバーフレンー♬


「このアニメいいよな」

「私も好き」

「あの後、二人どーなんだろ?」

「きっと、またどこかで巡りあえるわ」

「そうだな」

「・・・・・」


「って! 何を僕(私)たちマッタリしてるんだー(のよー)!!」

「日が暮れちまったよ」

「こうなったらセカンドオピニオンね」

「どーすんだ?」

「井上クンと尾方クンに相談するの」

「正気ですか?」

「仕方がないじゃない」

「まあ、そうだが」


 ピンポーン


「失礼しまっす」

「よう、何だよ。大事な相談って」

「うっ、シムさんの部屋、イカ臭いです」

「ほっとけ」

「サラさん?」

「あ、いやー」

「二人ともよく聞いて。これは真面目な話なの」

「お、おう」

「まずはこれを見てもらおう」

「わわっ! サラさん? 一体何を!」

「ちょっと、何私のブラ見せてんのよ、このヘンタイ!」

「いや、この状況を理解してもらうには、目視が一番かと」

「見せても何の解決にもならないでしょっ!!」

「あ、あのー。サラさん?」

「何だよ?」

「B地区がハミ出てましたが、もう一度よろしいですか? スマホに保存しとくんで」

「あいよ、ぐいっ」


 バッチーン!

 バッチーン!


「あだっ!」

「でっ!」


「やだもう、信じらんない。オトコってみんなサイテー!!」


「いいの撮れたか?」

「バッチグーです」

「よこしなさいっ! 削除削除、ぴ」

「ああっ!僕のお宝画像がっ!」

「井上よ、案ずるな。こっちは動画で撮ってクラウドに上げておいた」

「さすが尾形先輩!」

「もーっ! 一千万円よこしなさいっ!」

「高っか!!」

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