第五章
たっぷりとお土産にもパンを貰って、シフォーとディオは食堂を後にした。
「いいお土産ができたね」
「ええ、あなたのお陰です。」
「それで、目的地はもうすぐ?」
「ええ、山道を抜ければね」
しかし、この先の山道は、曲がりくねっているうえに度々魔獣が出没する危険地帯であった。
そして、注意深く進んでいる彼らの前で、周りの森から一斉に鳥が飛び立ったのと、突然鞍を付けた馬が前方から飛び出してきたのはほぼ同時だった。
「こいつ、さっきの!」
ディオは鞍についた紋章を身のがさなかった。
「・・・ネヴィルの馬のようですね。ということは・・・!ディオ!」
シフォーがネヴィルの馬を捕まえている間に、ディオが先に飛び出した。
「お待ちなさい!」
「助けに行かなきゃ」
凄まじいスピードでディオは山道を駆け上がった。シフォーも遅れじと後を追う。
この時代の獣には、時として魔力がかけられていることがあり、それを人々は魔獣と呼ぶが、特に人里離れた山道とか森の中では出現率が高いのだった。
国の中央部で魔獣が現れることはまずないが、こういった国境地帯では、領地内に紛れ込んでいることも珍しくない。
地元の人々は、魔獣を退治するのにそれなりの準備をして行くものだが、都会育ちで一人旅のネヴィルには、魔獣に対抗する手立てがなかったようである。
山道から森の中に少し入ったところで、鳥の羽ばたきと人の悲鳴が聞こえてきた。
「ネヴィル!」
倒れこんだところを数羽の魔獣化したカラスが襲い掛かったようである。
ディオは馬を飛び降りると、背中の剣を抜く。その刀身は光の届かない森の中できらりと輝いた。
「このやろーっ!」
叫びながら、ディオは剣を振り回す。カラスは、今度は一斉にディオに向かってきた。
「ちいっ!」
羽で顔を打たれて頬から血が流れると、ディオの顔つきが変わった。
シフォーは、気絶したらしいネヴィルの元に駆け寄りながら、感じていた。
ディオの『目覚め』を。
後姿からでも、彼の気迫が尋常でないことがわかる。まるで身体の周りから燃え盛る炎が噴出しているようだ。
父親の血なのだ、とシフォーは思った。
ディオに剣を託した彼の父親。
もう、この世にはいないであろう、孤高の剣士。
ディオの身体から溢れる気迫は剣にも宿り、一体となってカラスに振り下ろされる。
その度に、カラスは砕け散って跡形もない。
一度魔獣化した獣は、倒されれば屍も残さず掻き消える。
ディオの剣が鞘に収められる時には、元の静寂が森を包んでいた。
「・・・休んでくる。」
一言言い残して、ディオは肩で息をしながら森の奥に消えた。
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