モノクローズハウス
翌朝、俺たちはセントラルエリアから出て、大地エリアへと向かった。
あんな所にいるお祖母様とお祖父様が電話など持っている訳もなく、かと言ってお祖母様のように人の意識に入り込む術を俺は知らない。
この大人数、当初は8人だった予定が4人も増えてしまった事については何も伝えられずじまいだ。
「……にしても、大所帯だな」
「そう、だね。申し訳ないよ、私らまで同行してしまって」
「仕方ない。協力してもらう為には、どうしてもな。けど流石に、家の大きさによっちゃ外にいてもらうが……」
「かまへんよ、天使界の端っこいうたって、きっと綺麗なんやろ」
「さあな、実際行ったことないからな…。実はお祖父様に会うのも初めてなんだ、俺とスカイ」
お祖母様に会ったことはあるが、お祖父様に会ったことは無い。事情があってその場から動けない人らしい。
お祖母様の見た目も相当若いから、多分若いんだろうな……ということしか分からない。
「あ!オレんち見えてきたよ!」
真が、港の背中から指をさす。
言う通り、大地エリアの城が近づいてきていた。
城の前にゆっくり降り立つと、中に入るまでもなく、大柄の執事が出迎えてくれた。
あまりこの城に顔なじみの執事は居ないが、それでも初めて見た人だ。
「ああ〜!王子〜!」
「あ、新人くんだ〜。どうしたの?そんなに急いで。オレになんか用?」
「そ、それが…今客室に、若い女性が来ておりまして…。でもどうやら神ではないらしくて、あと人を待っているんだとのことでして…」
「?だれだろう。どんな人?」
新人らしいその執事は、身振り手振り加えながらその女性の説明をする。
「えっと、太い三つ編みでして、背も小さくて、ですが口調がものすごく強いです。あと服装が軍隊っぽいです」
「……っあー…すいーません、それ…う、うちの祖母です…」
俺は遠慮がちに手を上げる。ほんとうに申し訳ない。
「え!?あ!助けてくださった方!あれ?増えてる…あっあっ、そうだったんですね!かしこまりました!」
「助けたのはこっちですね…弟…。今、客室にいるんですよね?行ってもいいですか?」
「もちろんでございます!こちらです!」
執事に案内されるまま、客室に向かう。本当に迷惑かけて申し訳ない。
広い城内を案内され、客室の前に着く。
「失礼致します、先程ご案内させていただいた者でございます」
「ああ、先程はありがとう。きたか?」
「こちらの方々でしょうか?」
執事さんは、俺たちを室内に通してくれた。するとやはり、それは祖母だった。
「ああ、そうだ。すまないな、迷惑をかけた。そやつらだ」
「かしこまりました。何か御用がございましたら、お申し付けください!」
「ああ。直ぐに出る、かまわないでもらっていい」
祖母はそう言うと、こちらに座れとジェスチャーをしてきた。
言われた通り向かい側のソファーに腰を下ろす。
「増えたな。8人の想定だったが」
「ああこの4人は…」
「いい、わかっている。悪魔の4人だろう?あのサタンの手下にされてる奴らだな」
祖母は全てお見通しのようで、俺たちのことを迎えに来た様子だった。
「では行こう。ルートを自分たちで見つけたのは偉いぞ。だが、ここの端から降りたとして見つけるのは容易くないからな、私が先導しよう」
「あ、ありがとうございます…」
祖母は、そう言って先に立ち歩いていった。それに俺達もゾロゾロと着いていく。
「こんな人数をあそこに招くのはいつ以来だろうか。
「桔梗って、おじいさま?」
「ああそうだスカイ。お前ら2人に早く会いたくてうずうずしているんだ。今度は他の兄妹たちも連れてこい」
「はぁい!そうします!」
「お前は本当にスキアと正反対だな。見ていて面白い。…残り6人、光に港、涼清、春歌、真、輝。お前たちはこの2人を私より知っているだろう?後で茶でも飲みながら聞かせてくれたまえ」
お祖母様にそう言われ、後ろに続く6人はそれぞれに快諾の返事をした。その間俺たちはどんな気持ちでいろと言うんだ。
城の裏手から出て、大穴へと近付く。
「なぁ真、この大穴って何であるんだ?」
「ああ、お兄様が開けちゃったらしい!」
「え?」
「なんかね、お兄様が小さい時、自分の能力がなにか知りたくて試したんだって。それでね、ここで試してたら勢いつけすぎてこうなった…って笑ってた!」
「…こわ…」
さすがにドン引いてしまった。このレベルを幼い時に開けちゃったってなんだ?こわい。
その、真のお兄様が開けてしまったという大穴から、お祖母様は飛び降りていく。それに続き、俺達も飛び降りた。
まだ真下は雲の海だが、お祖母様に着いて行き抜ける。
すると、天界が見えてきた。見慣れた街がいくつも見える。近づくにつれ、見たことの無い景色に変わってきた。
「ここまではスキアたちも来たことがないだろう。管轄外だからな。ここら一帯は、私の管轄だ。元々はお前らの父が見ていたが、居ないから仕方がない」
「ここ、父さんの管轄だったんだ…凄いな、栄えてる」
「ああ、私は九龍の敷いたレールをなぞっているにすぎない。アイツは有能だよ」
今は居ない息子の事を、少しだけ寂しそうに語る。
でも、過去形にはせずに居るのはやはり生きていると確信しているからかもしれない。
しばらくついて行くと、白と黒がやたら多い地域が出てきた。
「お祖母様、あそこが?」
「ああ、あの地帯の中心にある。あの白黒は全て薔薇だ。元々あったものでは無いが、桔梗がいたく気に入っている」
「そうなんですね…お祖父様は何故動けないんですか」
「見たら分かるさ。だが、そんな事吹き飛ばすほど明るい男だ。底抜けにな」
「ふぅん……」
そう語るお祖母様は、この白黒の花畑の中心に降り立った。
そこにはウッドハウスがあり、そこそこの大きさがあった。どうやら全員は入りそうだ。
中に通されると、そこにはとても綺麗な男性が立っていた。
白くて長い髪、それをひとつに後ろで括り、毛先は紫。白い和服を身に着けて、足元は裾が長くて見えなかった。
「真宵……!息子にそっくりなのが2人いる……!!!」
「ああ、孫だからな」
「孫〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
抱きついてきそうな勢いで喜ぶが、手を広げブンブンしているだけで、そこからは動かない。
「あの……動けないって、まさか……」
「ああ、その場所からひとつも動けないのだ」
「そーなんだよ〜!おじいちゃんね、ここから動けないんだよ〜!」
「えっ……、ど、どうやって生活してるんですか!?」
「これでも昔は普通に動けたんだけどねえ。いつからかなぁ。八龍が結婚したくらいからかなぁ」
「やりゅう……?」
俺たちの父親の名前は九龍だ。テレビ界では、日本の若々しいレジェンド俳優なんて言われてるくらいの古株俳優。
だが、聞きなれない八龍というのは一体誰なんだろうか……?
「あの……八龍って?」
「あ!知らないっけ!?えっとね、僕の息子のね、えーっとぉ、スカイとスキアのお父さんは九龍でしょ、えっとね」
「ええい長いな、九龍の双子の兄だ。イギリスの親戚にライトとナイトが居るだろう、その2人の父親さ、もう居ないがな」
「あ、そうだったんだ……ライトとナイト、元気かなぁ」
「スカイはナイトと仲が良かっただろう。今度行けばいい」
そうして会話をしている間に、全員家に入る。後列にいた悪魔たちは、祖父を見て少しだけ驚いていた。
足元が着物に隠れていて見えないが、真後ろのソファに座ったり、それに寝そべることはできるらしい。足は地面から離さないが。
「皆をここに呼んだのは、ここが1番、呪いや封印について蔵書があるからだ。特に、九龍の使っていた部屋にな」
「父さんの部屋に、ですか?」
「ああ。お前の使う呪術の類はな、九龍が教えたものだ。記憶はなくとも、それは覚えているようだな」
「……父さん、が……おれに……」
全く、それについての記憶は持っていない。だが、ただ確かに、術の使い方は覚えている。
とても、もどかしい。
記憶のない部分にモヤモヤが掛かって、顔を顰めてしまう。
「よし!探そっか!ね!スキア!」
「あ、あぁ……そうだな。みんな!なんでもいい、あの封印に関するもの全て、見付けたら集合だ」
俺の言葉に、全員が返事をする。
俺とスカイは、父さんが使っていた部屋を見に行った。
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