上の槍
「そのマーク…なに?」
スカイがそう聞くと、4人は顔を見合せ、代表してか札が口を開いた。
「この印は、サタンの下僕のマークやねん。まぁ、これがあるから呪いが効きやすいだけなんやけど…。一生消えへん、
「烙印…じゃあ、輝のお父さんはこれを指してたんだ。本当に「上の槍」って名称なの?」
「せやな。というより、別に正しい名称はない。せやけど知ってる人ん中ではそう呼ばれることが多いんやろな。元々これは、天使と悪魔の戦争の結果を表しとる。この上向きの矢印が悪魔側、それを貫いた下向きの矢印が天使や。その戦争も、もう何千年も前の話やし、今のサタンもそん頃は生まれてすらいなかったはずやけど…このマークが余程嫌いらしいで」
「まぁ…天使が勝ったって如実に表してるわけだしね…。ま、今は和平を敷いてるんだからそんなのみんな忘れてるけど」
輝は腕組みをしながら呟いた。未だに機嫌は悪そうだ…。多分、4人がいる限りほぼ直らないと思った方が良いだろうな…。
「じゃあ、父様の地下を探す必要は無さそうだね。残すはモノクローズハウスだけど…。その前に…誰か社長から連絡来てる人いない?」
「…そういえばなんか来てた気がするな…そうだよな俺リーダーだもんな…」
少し焦りながら、俺は端末を点けた。そして、基本的にメールで連絡してくる社長の連絡が溜まってやいないかとメールを開くと、おぞましい画面になった。
「………すまん、ちょい、あのー…電話してくるわ」
「頑張れすきあーっ!オレは応援してるよすきあ!ね!ね!」
「うん、ちょい怒られてくるわホントに」
そう言い、俺は輝の部屋を1人でた。とはいえ野次馬は居るもので、出たのに数人が扉を開けて覗いていた。
「…あっ、もしもし社長…花園です…」
『あ!!やっと繋がったスキアくん!!もう!今どこ?』
「あ、今あの…輝の家…城…です、ね」
『あれ!?地上に居ないの!?なになに!?僕何も聞いてないんだけど!』
「あや、ちょーっと連絡しようと思って、そのー…色々あって…。社長っ!しばらくお休み頂けませんか!?も、もう出演作品のドラマとか吹き替えとか…撮影はスケジュールひとしきり終わってると思うんですけども…」
『んあーまぁそうだねえ。なんかその、フーイン?なんか大変なの?しばらく出れない感じ?』
「そっ、すね〜…出られそうにないー、ですねー…」
そう言うと、社長はしばらく黙った。多分、腕を組んで悩んでいる。
俺も俺で、その沈黙に耐えられなくなってきた頃。
『わかった!いいよ!そーのーかーわーり!』
「はいっ」
『それが1連終わったら活動再開ね!しかもつめつめだから覚悟しておいて!もう、スキアくんと春歌くん、涼清くんにはドラマのオファーが来てるし!あと光くんには化粧品会社からコラボ案件も来てるし〜全員もれなくお仕事入ってるのー!あとレギュラー番組もそろそろ始まるし…』
「は、はい…ちなみにそれっていつくらい…」
『再来月だってさ!よかったね〜!んで、いつまで休みたいの?』
「出来れば〜…夏休み明けまでとか…」
『しょーがないなあ…わかった!マネージャーちゃんにも話しておくから、その代わりそのフーイン?のこと!しっっかり終わらせるんだよ?わかった?』
「も、もちろんです!ありがとうございます社長〜!」
社長は満足気な声を出して「それじゃあね!」と電話を切った。これが終わったあとの激務を考えたら胃が痛いが、これで仕事の事も気にせずに活動できる。
ゲッソリしながら輝の部屋の扉に向き直ると、覗いていたメンバー数人が手を合わせて拝んでいた。
「とりま夏休み明けまではいけるぞ。でも涼清と春歌、俺にはドラマのオファー来てるし、光には化粧品会社からコラボオファー来てるらしいから再来月覚悟しとけお前ら」
それを聞いて、名前が上がったメンバーは崩れ落ちていた。
それを横目に部屋に戻ると、悪魔の4人が不思議そうにこっちを見ていた。
「君たち、中学生だろう?」
「仕事しとん?」
「あー…。お前らのせいで親がいないからな。稼ぎ口無いか悩んでた時に声かかってからアイドルしてんの。わかるか?アイドル」
「…あいどる…わからない…」
「知ってるわよ、人間がキャーキャーするアレでしょ?なんか、歌って踊るヤツ」
「そーそれそれ。お前見たことあるのか?」
「有るわ。ママがソレ好きなの。と言っても随分前の記憶だけれど…」
「ふぅん…」
ハートはバツが悪そうに目線を逸らした。
モノクローズハウスに向かうためには、まず大地エリアに向かわなければならない。…とはいえ、流石に今日はもう暗くなっているし、活動する体力も流石に無い。
ずっと乗せてくれていた涼清や港も同じだろう。
今日は休むことにしなければ、流石にいざと言う時に動けない。
「とにかく、今日のところは休もう。もう暗いしな。…お前ら、そういやあサタンからこうなんか…ないのか?」
「ああ、普段であれば脳内に直接伝令が来るんだけれど、呪いが阻害されているからか何も来ないよ。まあ、勘づかれるという点では危ないかもしれないけれど…」
「そうか。夜中にお前らに刺されても困るしな、それは仕方ないだろ。んー、そうすると、輝、泊まっても良いか?」
「勝手にしな〜。広いし好きに使ってよ、召使いたちも皆出たと思うしね。…悪魔の4人も、気に食わないけど好きなとこ使えば?」
「え、えぇ…いいのかい?王子…」
「う、うちらは別にどこでもかまへんというか外でもかまへんよ?」
「面倒だから全員一緒でいいだろ…と言いたいが…ハートだけ女だな…」
「な、なんかごめんなさい…?アタシは別に1人でも構わないわ。それこそここは彼の城でしょう?アタシこそ外で構わないわ…」
「………………。なんかそれムカつく。ここに居る僕ら、毛ほども君に興味無いから。君がどこでもいいなら一緒にいれば?」
「えっ!?えっでも…私は構わないけれど、いいの?他の人…」
そういうハートの言葉に、全員顔を見合わせる。そして全員「別に良い」と声を揃えて答えた。
「なんだかそれはそれで悲しいんだけれど…まぁいいわ、ありがとう。一緒にいさせて頂くわ」
「ハートに手ぇなんか出そうもんなら、次の日ボコボコやでやめときぃ」
「札?」
「そうだね、ハートにだけは手をださない方が賢明だと思うよ。うん」
「シリウス?ねぇ」
「……うん、よくない」
「シザー!?アンタら何吹き込んでんのよちょっと!?」
「…ぁっ、ははっ、仲いいんだな?お前ら」
「!…う、うん、そうね」
ハートは俺をみて、少し驚いた顔をした。ハートだけじゃなく、悪魔の4人もだった。なにかしたろうか?
「この人数だったら、そうだね…女の子も居るし、距離取れた方が良いから…。客間の大人数用の部屋を使おうか。こっちだよ」
輝は、そう言って全員を案内してくれた。通された部屋はとても広く、12人が広々使える場所だった。ベッドも幾つか用意があり、それもかなり気持ちよさそうなベッドだった。数に限りは有るため、全員は使えないが…。
「君、一応女の子なんだしベッド使えば?僕ら男は床ね」
「お前なんだかんだハートの事気遣うじゃん」
「うるさいな、これでも王子なんでね」
「あ、ありがとう、ブライト王子…。でも床は可哀想だわ、私たちのせいで疲れさせてしまったでしょう?是非寝心地の良いところで寝て欲しいわ?」
「…………輝でいい。ブライト長いし。王子要らないし」
「そ、そう…?」
「そう!…。じゃあ、STベッド使えば?5つ有るから丁度2人ずつで4つ使いなよ」
「さんきゅ!!俺こっこー!!!」
光が真っ先に壁際のベッドに飛び込んだ。それを見て、各々ベッドを決めた。
俺はスカイとが固定らしい。
「なァ、悪魔の3人は?」
「そやなぁ、床でええけど全然」
「砂利よりも寝やすい床だからね、全然満足だよ」
「うん。…河原より、気持ちいい」
「おめェらどんな生活してんだ…?いや、3人だったら1人ずつどっか入ればいいんじゃねェかな…寝首はかかねェでほしいが」
「まさか!そんなこと絶対にしないよ。けれどいいのかい?君たちにとって、私達は敵だろう?それに、今こうして行動を共にしていても許すことなど出来ないのではないのかい?」
シリウスの言うことも最もだが、だからといって床で寝られては寝覚めが悪い。
「…俺、シリウスの事よく覚えてねぇし、やられたっていう記憶もない。許す許さないを決める記憶があんま無い。だから来てもいいぞ」
「スキアがいいなら僕はいいよ!」
「…札、俺の事助けてくれただろ?崖の下から。お礼だ、来ていいぞ!いいよな?涼清」
「いいぜ」
「シザーは友達になったから!いいよ!おいでよ!ね?良いでしょ輝?」
「真がいいなら僕は構わないよ」
各々がそう提案すると、3人は少しだけ沈黙…いや、ちょっとグスッという音が聞こえた。
そうして、3人は誘われたベッドに入った。ちょっと狭くなったが、まぁ寝れない訳でもない。
そのまま、その日は全員で休んだ。
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