砂漠に咲いた優しさ

 スキア達と別れて、大地エリアへと僕達は向かった。

 真は穏やかだからあまり心配はしていないけど、シザーの呪いを抑えなければならない。殺し合いでもされちゃ困る。



「みなとぉ…真、大丈夫かなぁ…?」


「大丈夫やろ〜、春歌心配なん?」


「心配だよ〜!だって真だって神様だもん…!」


「あん…?もしかして真の心配やなくてシザーの心配してはる?」


「?うん…真が死なせちゃわないか心配…」


「そっちか〜!」



 港の背中で、そんな気の抜けた会話をする。僕を含め春歌と港は笑っているけど、流石にこの空気にシリウスは着いて来れないみたいだった。



「あ…あれが大地エリアかい?随分と広大なんだね」


「せやで〜、ほんまは水エリアを通らんとあかんねんけど、高さが有るからやね。速さはでぇへんけど、高さは出るさかい」


「そうなのだね…それにしても、皆穏やかなのだね」


「そりゃあね。真も馬鹿じゃないしさ。シリウスだって、そう言いながら落ち着いてるじゃない」


「いや私は…これでもかなり、焦っているんだよ?」


「えっ…わかんな…」



 確かに顔を見れば、少しだけ心配そうな顔をしているような気がしなくもない。でも、スキアより顔が変わらない。


 大地エリアの王城前にゆったりと降りる。どうやら、シリウスの持っている石が安否確認用のものらしく、シザーはちゃんと生きているようだった。



「まだシザーは元気のようだよ。君たちの方は…流石に心配していないか」


「そうだね。真、強いから」


「強いというかなんというか…多分やけど、接敵してても遊んどるやろなあ。ほんまに怒ることないんやもん、あの子」


「ボクも、真が怒ってるの見たことない…!」


「あ、厚い信頼なのだね…」



 ゆっくり王城の扉を開く。すると、扉の目の前に大柄の男性がいた。前が見えない。



「あ、あの〜…」


「ハイ!?!?あ!!す、すみませんお客様でございましょうか!?」


「あ、まぁ、はい。…こんな所でどうしたんですか?」



 大柄な男性は城の執事のようだけど、顔を見た事がない。多分新人さんだ。

 酷く慌てている。



「す、すみません!王子のご学友とお見受けしますが…!今、お、王子襲われてて!あ?いや襲われてるんですけどなんかえっと…!」


「あーもしかして…襲われてるけど相手にしてない感じですか?」


「あ!そうです!!そうなんです!!それで誰も止めることも出来なくて…」


「…止めますね」



 大柄な執事さんに少し退いてもらい、視界が開けた。

 広いロビー空間で、大きなハサミを持った男と真が戦っていた。いや、戦っているという表現はそぐわないのかもしれない。


 ハサミの男、シザーは必死に真へ向けてハサミを向け追いかけているが、真が手を叩いて笑いながら避けている。


 そんな中、こちらに気づく余裕まで持ち合わせている。



「あ!スカイー!港ー!はるかー!…あとだれー?あ!それあれ!シリウスさん!でしょ!?」


『こっち、みろ…!ちょこまか…!』


「あごめんごめん!ね〜止まろうよそろそろ〜。疲れたでしょ〜?オレ疲れたあ〜」


「真あとちょっと頑張って?今止めてあげるからね」


「ほんと!?わかった!オレがんばる!」



 ぱぁ!っと顔を明るくした真は、ニコニコしながら避け続けている。

 僕は、必死に追い掛けているシザーに狙いを定めて預かった石を1つ掴んだ。

 動いていてやりづらいけど、できないことも無さそうだ。


 僕の投擲軌道の範囲内に入った瞬間、ココだと勘が告げたところ目掛け石を投げた。

 弓矢の先にでも付けられればいちばん良かったけれど、そうもいかない。


 狙って投げた石は見事にシザー目掛け飛んでいき、シザーの眉間にヒットした。

 ビクッとして動きを止めたシザーは、その場にぐったりとする。



「おっ?止まった!すごいすごい!スカイすごい!!」


「スキアが阻害の石をくれたんだよー、これをー…失礼シザー、首ひんやりするね〜」



 項垂れて言葉を発さないシザーの首に、残りの石を氷で固定する。



「シザー、私だよ、シリウスだ。大丈夫かい?」


「しり…うす…。……うん」



 シザーは小さく頷く。そして、真に向き直って土下座を始めた。



「ご、ごめんなさい王子様。あ、あやまっても、ゆるされないと、おもうけど…」


「いーよ!ゆるしたげる!しょーがないもんね!」


「えっ…?」



 呆気に取られたシザーは、目深に被ったフードが脱げているのも構わず顔を上げた。水色のフワフワとした短い髪がよく目立った。



「ゆ、許して、くれるんですか…?」


「うん!だってオレ、気にしてないもん!あ!そりゃとーさま達が居なくて悲しいよ?でもね!事情を知ったらもういいや!死んでないんだし!」



 ポカンとしたシザーは、数秒の後気を取り戻して深々と頭を下げた。



「ほ、ほんとにありがとうございます、あ、あの、王子様おれ、王子様の言うことならなんでも聞きますから…!」


「えっ?ん、んー…でも召使い沢山いるし…そうだなあ…えっとじゃあ、友達になって!ね!」


「と、ともだち…?い、いいの…?」


「うん!今日から友達ね!よろしく!」


「…真はほんとに優しいね…?」



 ほかのメンバーは、許すことは出来なくともとりあえずは協力しようという体でいるが、真だけは最初から気にしてもいなかったようだ。

 そのまま、真はシザーに手を差し伸べ立たせると、微笑みかけた。



「君たちも、サタン嫌いだよね?」


「…きらい」


「うん、好まないね」


「家族、助けたいよね?」


「うん、たすけたい」


「もちろんさ」



 その返答を聞くと、真は一際ニコッと笑って親指を立てた。



「真、この後、セントラルに向かおうと思う。まだ調べ物が残ってるから」


「うん!わかった!結局最終的にはここの裏に戻るんだよね?」


「そう。行ったり来たりになってしまうけど、とりあえずはその予定だよ」


「わかった!じゃあ輝のところに行こっか!大丈夫かなぁ」


「ん…あ!大丈夫みたいだよ。スキアから連絡来てた」



 僕はスキアから来ていた、『こっちは大丈夫だ』というメッセージをみんなに見せた。

 全員安堵の表情を浮かべ、港にまた乗ってセントラルエリアに向かった。



 *



 セントラルに着くと、いつもと変わらない気色と、静まり返った城があった。大丈夫だと言うんだから大丈夫なんだろうけど、不気味さが残る。



「ほ、本当に大丈夫なんだろう?ハートは生きているけれど…それにしたって静かではないかい?」


「ま、まぁ…セントラルエリアのお城はいつも静かだからね…。僕らも中に入ろ!入ったらわかるよ」



 不安がるシリウスを宥め、城の中に入っていく。シリウスはこう見えて心配性なようだった。


 入ると、執事やメイドさん達がいそいそと荷物を運んでいた。



「あの、どうかしたんですか?」


「あら!スカイ様!今みんな、休暇支度をしておりますの。王子が召使いに休暇を下さったんです」


「え、そうなんですか?まぁ…しばらくばたばたしてるから、丁度いいかもしれませんね…。あ、ブライト王子は自室ですか?」


「ええ!先程の怖い女の子と皆様とおりますわ。大丈夫なのかしら…」


「ああ、大丈夫ですよ。もうあの子は怖くありませんから」


「え?あらそうですの?まぁなんでもいいですわ!どうぞどうぞ!お入りになって!」



 メイドさんはそう言うと、また荷運びに戻った。

 輝の自室をノックすると、輝の声がした。ああ、とても不機嫌な声色だ…。



「入って。どうせスカイでしょ」


「う、うん、スカイだよ…しつれいしまーす…」


「輝〜〜!真、帰還です!」


「はいはい。で、地下だっけ。探せばいいんでしょ」


「…えっと、どういう状況か教えて貰っても差し支えないかな…?」


「君…シリウス?ふぅん。今、父様が残した「上の槍に気をつけて」っていうのを調べようと思ってね。父様の書斎にはろくな本がないから、地下にあると思って」


「上の槍…。上の槍?札、それって…」


「上の槍ってこれやろ?」


「え?」



 輝がそう言って顔を上げ、札とシリウスを見る。

 札とシリウスは、ハートとシザーにも目配せする。

 札は隠している方の目を、シリウスは左目の下を、ハートは首筋を、シザーは右手の甲をそれぞれに見せてきた。


 そこには、上を向いた矢印の棒部分に、下向きの矢印が2本描かれたマークがついていた。

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