分かってたとしても。

 俺たちが急いで神の国に戻る間、札とシリウスに情報を聞き出す。

 シリウスと札は、聞かれる質問に対してしっかりと答えている。


「確か、セントラルにはハートが行っているはず…。大地エリアにはシザーが行っているはずだよ」


「その二人について詳しいこと話せるか?」


「多分、二人については私よりも札のほうが詳しいはずだよ」



 札に同じ質問をすると、少し苦しそうにしながらもゆっくりと答える。

 札にかかっている術は他よりも強いようだ。


「ハートは、賢い女や。…やからセントラルを任されとる。あんたら過去見てきたんやろ?やったらわかると思うんやけど、ハートはトランプで攻撃する。トランプの記号になぞらえた呪いをかけて相手に放つことで効果を出してんねや」


「なるほどな。けど、一瞬だけ呪いがとけたときに謝ってたな…」


「ハートも本当は優しいやつなんや。…大地エリアに回されたシザーは、無口で内気な男や。小さい動物にも優しいやつやな。武器は地元の名産の特大布バサミ。それに封印紋を刻んどる。…実行したあとはかなり悲しんでた」


 札は目を伏せて、すこし悲しそうにいう。

 自分も、その後の気持ちを考えると悲しくなってくるのだろう。

 神の国に近づくが、やはりセントラルはワープしないとかなり遠い。大きい狐の姿になり背中に乗せてくれている涼清は、妖怪の中でもかなりの速さが出るがそれでも時間が少しかかる。



「なァ、俺ァよ、おめェらが操られてるって分かってっから特に手出しはしなかった」


「え.......うん.......なんや?」


「輝は、そうと知ってても許さねぇと思う」


「あ.......」



 スカイが気付いて小さく声を上げる。そうだ、輝は操られていることをわかった上で許しはしないはずだ。


 だとしたら、先に食い止めるべきなのは輝だろう。

 かと言って、真を放置する訳にも行かない。



「じゃあ、チームを分けよう。俺、涼清、札、光は輝の元に行く。スカイ、春歌、港、シリウスは真を頼む」


「あァわかった。港、こっからなら大地エリアはあっち側だ、飛べるな」


「ええよぉ。ほな、スキアの言う通り迎えに行きます。スキア、阻害の石を1つ2つくれると助かるんやけど」


「おう。ほれ、4粒だ。食わせても問題はないからな、くっつける術がなきゃ飲ませろ」


「分かりました〜、ほな、また後で。セントラルに後々向かうさかい、待っとってや〜」



 港はそう言いながら、大地エリアへの空路を走っていった。

 涼清も炎の出力を更に上げて、スピードを加速させる。



「このスピードなら、すぐに着きそうだな」


「あァ、が、そう長くも持たねェ。しっかり掴まっとけ、城のデケェ門前に墜落覚悟しとけよ」


「おーいおい墜落ってマジか、俺体弱いのにぃ〜」


「こんな時ばっか虚弱アピールしてんじゃねェ犬っコロが」


「オメ〜もイヌ科じゃねーか!!!」


「ネコ目イヌ科ですゥ〜!!!」


「どっちゃでもええて」



 札はツッコんだ後、「あ」というような顔で黙ってしまった。

 セントラルは一際高い所にある。アイツらが先に大地エリアへ着くだろう、早く着かなければ、取り返しのつかないことになりかねない。


 かなり上まで飛び上がり、セントラルの城を軽く越した辺りでピタリと動きを止める。

 そしてそのまま、浮力を落として一直線に城の正門前へと目掛けて落ちていく。



「お、あ、ぅおああああああ!!!!」


「掴まっとけええ!!!」



 光の悲鳴と、落ちていく涼清。空から落ちることには慣れている俺と、そもそも冷静な札。


 地面がだんだんと近づくにつれ、光は泣きそうになっている。



 ダァン!!!



 と音を立てて、門前に着地。

 砂煙を立てて視界があまり良くないが、いやに当たりが静まり返っている事だけはわかる。

 涼清の背中から全員降り、辺りを見渡す。特に変わった様子も無さそうだ。



「スキァ〜〜……目が回る……」


「すぐに治るだろ。光、それよりお前、耳いいだろ?なんか騒がしかったりはしないか?」


「んんー、特に…というか、怖いくらい静かだぞ」


「だよな…もうハートが来ていてもおかしくないと思うが、じゃあなんでこんなに静かなんだ…?」



 使用人も、ペットの姿も見当たらない。

 城下町の様子も、特に変わりはなく小さな通行人たちの行き交う姿と、店から伸びる開店の旗、露店等がしっかりと機能している。


 ただ異様に、この城だけが不安な雰囲気を醸し出していた。



「なァ、もう殺っちまったってこたァ…」


「それはあらへん。まだハートは生きとる」


「何故分かるんだ」


「これ、みぃや。誰かが死んだ時に分かるよう、サタンが持たした宝石や。人数分ある。このピンクがハートのもんやけど、これの色が灰色になった時ハートは死んだっちゅうことになる」


「はー、便利なもんあるんだな!んじゃー、ハートが城にいるかもわかんねーけど、とりあえず入るか!」


「そうだな。先を急ごう。あと2秒で灰色になることがあるかもしれない」


「こっっわいこと言うなスキア!!」



 俺たちは、足早に門をくぐり城内へ足を踏み入れた。

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