呪い
そのサタンの言葉を聞いた俺たちは、やること、計画していたことを一旦中断して、急いで家に帰った。
鞠とゼルクとリルを、守らなければ……!
「くっそ、時間かかるぞ……」
「今全力で飛んでるんだから、これ以上早くなんないよ〜……!」
「間に合え、間に合え……!!」
京都組は京都に各々飛んで行った。俺たちは、東京に向かって急いで飛ぶ。
段々と家が見えてきた時、何かが横を通り抜けた。
そう思った瞬間、目の前に人が現れた。
白いハットを被った、懐中銃を両手に持っている金髪の男。
忘れていたはずの恐怖が、胸の奥から込み上げてきた。
こちらを向く銃口、光の灯っていない虚ろな青い目、ブレない照準。
空中のはずなのに、利はこちらにあるはずなのに、体が動かない。
「スキア!!!」
叫ばれて我に返ると、スカイに思い切り腕を引っ張られ連れていかれた。
どこへと言う訳では無い、あの銃口から逃れられる軌道をただひたすらに飛んでいる。
「ちょこまか……うごくな……」
虚ろな目は、ボソリと呟いた。明らかな苛立ちと焦り。
「シリウス!目を覚ませ!お前はこんな事しなくていい!」
スカイはそう叫ぶが、ハットの男……シリウス・ガン・ロードは耳を貸さない。
俺達を狙う目、これは確実に、戦える俺達を始末してから残りを仕留める作戦だろう。
呪いが原因でその正気が戻らないなら、一瞬だけでも強制的に解除すればいい。
いつも腰に下げている、黒色のポーチから一つの青い石を取り出した。
兄さんの部屋を掃除していたら見つけた、青い石だ。
部屋の机に、その石のことが書いてあった。呪いの効果を阻害する石……らしい。
それがどこで取れるかまでは書かれていなかった。何故かは……俺には分からない。
「スカイ、お前、弓得意なんだから投げんのもそこそこ出来るだろ。この石をあいつのどこかにさえ当ててくれればそれでいい。頼めるか?」
「投げるのと弓とじゃ違うよぉ?……仕方ないなぁ、外しても文句言わないでよね!」
スカイは渋々その石を受け取ると、あんなことを言っていたくせにノータイムで投げた。
狙う時間もなく投げた石が飛んでいく。
シリウスは何か投げられたことに気付き避けようとする。
……のも、予測していたのか、その石は初めからその位置にいたシリウスなど狙わずに、避けた後のシリウスに目掛けて飛んでいた。
その石が丁度避けたシリウスの首筋に触れると、機敏に動いていたシリウスがビクリとして止まった。
「へ……?」
虚ろだった目は光を取り戻し、その表情は呆然とした顔から少しの恐怖に変わり、自分に掛る重力に恐怖を増した。
「う、わぁぁぁ!!」
元来飛べなかったシリウスは、呪いの力で浮遊が出来ていたんだろう。
それが阻害された途端、浮遊力を無くして地面へと急降下して行く。
俺たちだって、自分の意思で悪行をしていた訳では無い男に落下死など望んでいない。
シリウスが落ちていく中、俺は一緒に急降下してシリウスの腕を掴んだ。
落下を免れたシリウスの顔は、また唖然とした顔になった。
「よー。はじめまして、シリウス」
「へ……え?……ぁ……」
「ハッ、うちの家族封印したヤローだってのに、落ちたぐらいで喋れなくなってんじゃねーよ」
「……き、みは、……すかい?」
「……スキアなんだけど」
「す、すまない、見分けがつかなくて……。……初めましてでは、ないだろう……?」
「俺にとっちゃ初めましてだっつの。覚えてねーし。つか話すの初めてなんだから初めましてでいいだろ」
「そ、そうか……」
俺はシリウスの腕を掴んだまま、廃ビルの屋上まで連れて行った。あの青い石をもうひとつ取り出して、シリウスの手の甲に押し付けたまま。
「……ありがとう、……殺してくれても良かったというのに……」
「自分の叔父に操られてた奴見殺しにするほど腐ってないが。ましてや、お前をこの手で刺し殺すことも考えてない。別に、親たちが死んだわけじゃないしな」
「優しいのだね、君たちは」
「ふう、はじめましてシリウス!こっちがスカイだよ〜」
「ぁ……はじめ、まして。なるほど、口調と髪の毛のクセで見分けたらいいのか」
シリウスは、自分がしていたことを分かっているからこそ、ずっと暗い顔で居た。
確かに、ここまでしてくる奴とこうして話す俺たちもお人好しかもしれない。でも、こいつ以外まだ家族に手を出さないのなら別にいい。
「おいシリウス、他の奴らは俺たちの他の家族を襲わないか?」
「達成報告するまでは、来ないと思うよ……。……だけど、あまりにも遅かったら来るかもしれない……。だから、私が襲えないようにこの廃ビルでもどこでもいい、縛り付けるか氷漬けにして閉じ込めてくれないかい?」
「自分から望まれると変な気分だな……。……話が終わったらそうしてやるよ」
シリウスは分かったとうなづいて、大人しくしている。
隣に座る男は、端正な顔立ちで、気品のある姿だった。同い歳くらいだとは思っていたが、少しだけ大人っぽい見た目に見えるのは、ハットと白のベストに黒のシャツ、白の細身のパンツという服装からだろうか。
「お前いくつだ?」
「14……君らと同い年だよ」
「同い年って聞いたよ、君、ガン・ロード家の長男でしょ?」
「ああ、そうだとも……。はぁ……、本当に済まない……いや、謝っても許されるとは思っていないよ……。天使に手を出すどころか、妖怪や神にまで手を出してしまうことになるなんて……。本当に、本当に大変なことを……」
「お前らが叔父さんに操られてることくらい分かってる。だからこうして、呪詛を阻害して話してるんだ。……何が目的なんだ」
「……この世界を……。滅ぼすことだよ。……なんて幼稚で稚拙な考えだろうと思うだろうけれど、サタンは本気だった。……私らも、君と一緒なんだ。家族を人質にされていて……。言うことを聞かなかったら封印だけじゃなく殺すって……!」
「……なるほどな。そりゃ、俺達もお前らは責められない。……敵はサタン、か。あの人間たちと魔法陣は?何を呼び出そうとしてる?」
「……クトゥグア、ヨグ=ソトース、俗に言うクトゥルフ神話と言われる、外なる神の他に、この世界には伝承としては伝わってない宇宙に居る星そのものの化身達……。太陽の核、金星の核、木星の核、……彼らは、この世界の敵でも、味方でもない。地球なんて眼中に無い、数多ある星屑たちのひとつに過ぎない。太陽系だとか言ってるけど、あれは周りにいるだけであって、味方になりうる理由はない……らしい」
「……それは、いつ、呼び出される?」
「少なくとも200年後……。私らは余裕で生きているよ。この計画は誰も知らない、……いや、知っているけれど、封印されてしまってる。……私らや、君らの家族のように」
シリウスは、俺たちに洗いざらい教えてくれた。途中から涙を流しながら、必死に謝りながら。
それで俺らがこいつらのしたことをチャラにできるかといえば無理な話だ。でも……恨むことは出来ない。
他の人にはこの青い石はない、だからこんな風に話は聞くことが出来ないだろう。
俺たちが出向くしかない。
シリウスに石を氷で固定したまま、シリウスを引っ張って、俺たちは他の仲間の所へ飛んだ。
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