世界樹の根

 真の城へ行くには、セントラルエリアから水エリアを通って行かねばならない。

 セントラルエリアの河口から、川舟に乗って水エリアの水路へと入る。4人に分かれて2つの川船に乗り、水の流れに任せて水エリアに入国する。

 水エリアは、道が全て水路で出来ている。この水路の中には大きな海獣が住んでいるようだが、そいつらは水面には滅多に出てこない。出てきたとしても、ラビリンス器官(水の中の酸素だけでは足りない種類が、エラだけでなく空気中からも呼吸するための器官)の有る海獣が息をするために頭を出すくらいだ。

 顔面だけでも川船より大きいから、全長なんて想像したくもない。



「しっかし……神の国ってどこ見ても綺麗だよなー。天国の方も景観には気を使ってるけど……段違いだな」


「そうだねー。天国にも採用したいよねこういうの。どぉ?してもいい?輝」


「勝手にすれば?ボクは良いと思うよ。どう取り入れるかは天使の裁量次第。ま、スキアとスカイのセンスなら良いと思うよ。あの天国のスケールなら、植物エリアが最適だとは思うけど」


「今度、見学しようかなぁ。ね?スキア」


「そうだな、やること全部終わったらな」



 船は、端から端へと進んでいき、大地エリアの船着き場に着く。水エリアは涼しかったが、大地エリアになるとかなり暑い。


 真は実家だから慣れっこの様だが、他の7人は結構耐え難い。特に俺やスカイは氷の能力がある以上、暑さに弱い。

 例外、輝だけは顔色を変えずに歩いているが。



「シン王子、お友達ですかい?」



 街の商人が、真に話しかけてきた。

 真の読みは「まこと」だが、本名はシン・グラウンド。こっちではシン王子と呼ばれている。

 真は弾けるような笑顔で返事をした。



「うん!だーいすきな親友だよ!天使に妖怪!あとはブライト王子だよ〜!」


「おお、ブライト王子、また無表情でらしたもんで気ぃつかなかったですわ!」


「そりゃ失礼。暑くて暑くて、顔色どころじゃないんだよ」


「あ……輝も暑かったんだ……」


「は?当たり前でしょ何言ってんの光。この国で王室の格好のまんまだなんて、熱中症まっしぐらだよ」



 輝は、セントラルエリアの王族のジャケットを脱いでシャツの姿になる。それでも長袖で、かなり暑そうだ。

 襟のボタンを2つほど開けて、パタパタと無表情で扇ぐ。



「今日はもう夕方だし、うちに泊まっていきなよ!空き部屋なら沢山あるし、お父様の部屋いちばーん広いから、皆でそこに寝よー!」


「え……メロディオ陛下の自室……??」


「んぇ?ダメなの港?」


「いや聞きたいのはこっちやねんけど……?ええの陛下の自室つこうて……?」


「いいよ!いないもん」


「んぐ……刺さること言わはるなぁ真……」


「どうして?だって、父様たちは死んでなんかないんだから、悲しむ必要は無いでしょ?ぜーったい、帰ってくるから!」


「……、そうやね、ふふ、その明るさ、ほんに好きですわあ」



 真は時々、こうして純粋無垢に明るいことを言っては皆を励ましてくれる。ムードメーカーってやつだ。


 そうして話している間に王宮に着き、中に入る。

 残りの少なくなった執事やメイドが出迎えてくれる。



「さ、目的のとこに行こっか。こっちだよ」



 真に案内され、陛下の自室前を通り過ぎて廊下の突き当たりに行く。今はただの壁だが、真が手をかざし、呪文を唱える。



「さ、開いたよ。直ぐに消えるから急いで入ってね!」


 8人で、開いた入口に急いで入る。中は、あの過去で見たのと同じ部屋だった。


 薄暗いが、浮遊しているランタンが照らしてくれている。

 真はその中のひとつを手に取り、奥へ奥へと進んで行った。そして、とある本棚の目の前で立ち止まる。


 あの記憶で見た陛下と同じ動きをして、扉の仕掛けを解く。

 本棚がずれ動き、あの部屋へと繋がっている入口が出てきた。


 大きな根っこが下がっている部屋、大型の壁面モニター。

 この国の雰囲気には似合わない、近未来的な内装だ。



「なぁ真、これって、なんの木なんだ?めちゃくちゃデカそうだけど……」


「ああ、王城の中庭にある世界樹の根っこだよ。真下なんだ。この部屋は魔力の発生源になってて、この部屋の魔力の安定の代わりに、世界樹の力を利用して命令した場所の情景を見ることが出来るんだ」


「へェ……すっげ……誰が作ったんだァ?」


「お父様だよ。お父様、魔力とか自然物の魔法を利用した魔導工学が得意なんだ。普段はヘラヘラしててそんな風には見えないけどね」


「かっけェ……」


「よし。じゃあ見ようか。……モニター、サタン城、城外全域」



 真が指示すると、根っこの下にある水色の円が淡く光り、根っこから力を吸い取っているようだ。

 モニターが起動し、モニターには暗闇に包まれたサタン城の全域が見えた。


 そこには点々と大きな魔法陣が輝いている。魔法陣の中央にはやはり、人間らしきものが膝を着いて脱力しながら上を向き放心している。



「……多分、俺でもわかるんだけど、この人間は魔法陣の魔力供給源だね。人間自体に魔力はないけど、媒介にして魔法陣に地脈からの魔力を通してるんだと思う」


「何を召喚しようとしているんだ?たしか、この方陣は召喚用の方陣のはずだ。円の外側の呪文が召喚呪文だからな……。この召喚呪文の長さと方陣の大きさからして、並大抵の物じゃ無さそうだし……」



 魔法陣の光は一定を保ち輝いている。

 大抵の魔法陣は、足で踏み消せば効果は無くなり消え去るが、長年そこに書かれたままになっている場合、描かれたインク材料にもよるが消せなくなることもある。



「……たしか、お父様はよく悪魔界に出向いてた気がする。ブライト、お留守番頼んだよってよく言われてたな……」


「じゃあ、メロディオ陛下はここのモニターで監視、メザミール陛下は訪問調査してたってことか?何にせよ、2人が何か知ってたことには違いない……というか、俺たちの父親は、何か知っていたのかもしれないな」


「そうやねぇ。ウチのおとんも、春歌や光、涼清のおとんと一緒に黄泉に行っとったらしいやないの。それに、そのモノクローズハウスにはきっと、スキアとスカイのおとんが何かしら関係してるはずやし」



 そう考えると、父親たちの跡を見つけていくのは、封印された理由と一緒にサタンの企みも分かるかもしれないって事だ。なんだろうと、サタンのやっていることは許されないことだと言うことが分かってきた。


 ……この手で、サタンにトドメを刺そう。


 血縁だろうがなんだろうが、野放しにしておく訳には行かない。かと言って、人外たちの留置所に活かしておいても、こういうタイプは何をどうしようとどこでだって計画を続けるだろう。

 放っていては損しかない。



 モニターを注視していると、城の正面玄関が勢いよく開き、4人の人影が放り投げられたように出てきた。4人は地面に叩きつけられ、起き上がるのに時間を要している。



「!モニター、音声プラス!」



 真が指示すると、モニターから音声が聞こえてきた。



『くっそ、どないなっとんねん……!サタン!ウチらは働いたハズや!家族にはなんもせんゆーてたやろ!!』


『そうよ!どうなってんのよ!約束と違うじゃない!!』


『契約違反は重罪だろう!これじゃあまだ足りないって言うことか!?』


『……ゆる、さない……!』


『黙れハエ共!ハッ、約束?契約ゥ?働きゃそれでいいンだよ!ハッタリに決まってんだろあまちゃん共がよォ。騙されるおめーらがわりーんだよ!フン、ま、口答えなんかしたってテメェらは駒だ、まだまだ働いてもらうぞ。……生かしたヤツら全員ぶち殺して来い。いいな?』



 サタンの声だ。今まで反抗していた4人は、また術をかけられたのかフラフラと立ち上がった。



『ハイ、マスター』



 4人は、フラフラとその場を歩きだし、フッと消えた。



「……生かしたヤツらって……もしかして」


「俺たちと……兄弟、か……?」


「……こりゃアカンことになって来よったなぁ。下の兄弟おる人ら、今家なんとちゃうん。……はよどうにかせなあきまへんねェ……」



 俺たちの脳裏に不安がよぎる。

 急いでモニタールームから出て、電波の繋がる場所まで走っていった。

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