赤に染る薔薇
「次はー?スキスカ?」
「おう、頼んだ」
「時間は23時だと思うから、お願いね」
「りょーかいっ、王様いってきまぁーす」
ボクは、スキアとスカイを置いて、他のメンバーと共に、9年前のロンドンへ遡った。
9年前の、11月21日22時。静寂に包まれた街の少し外れの方にある、真っ白な一軒家。周りの薔薇は、赤と白。左側の庭が赤で、右側が白だ。
家の電気はまだ点いている。きっと、スカイやスキアの兄、姉、父、母はまだ起きているのだろう。
「はァー、スキアとスカイの実家ってこんなとこなんだな」
「あの2人の美的感覚、これを見れば納得だね〜」
「これはお世辞じゃなく、アイツら身につけてるものとか選ぶものとか、センスいいもんな」
「Theヨーロッパって感じのん選ぶんやもんねぇ」
話しながら、家の中に入るとケーキの甘い香りがした。
『九龍〜、ケーキ、もう少し残ってるけどたべる〜?』
『ん、食べようかなぁ』
スカイとスキアの父親、九龍さんと、母親のシャルテさんだ。
2人はケーキを食べながら、紅茶を飲んでいる。
今はイギリスに居るが、シャルテさんはニューヨークを拠点に元々女優業をしていた。この消える直前にも、たまにその界隈へ出演していたようだ。
九龍さんも、日本のドラマや映画にも引っ張りだこだし、シャルテさんと同じ界隈の映画にも頻繁に出ていた。
「奥の方、見に行ってくるね」
「おゥ。行ってこい。俺と港は外見てくるわ」
「じゃあ輝、俺と春歌は、お兄さんとお姉さんの所見に行ってくるね」
「お願いね真。じゃ、分かれよう」
奥の方、スキアとスカイの部屋に行く。隣にはさらに下の2人がいる。
下の2人は、ぐっすりだ。
スキアとスカイは、まだ起きていた。と言っても、何だか寝れていないような感じがする。
『スキア、声、でないの?』
スキアは、激しく頷く。
『くびのじゅもん、みせて?』
スカイの言葉で、スキアは首に巻いている包帯を取る。
『消えちゃってるね……あ、スケッチブックどうぞ』
スキアは、スケッチブックにサラサラと文字を書いていく。
[ What can I do now for rewriting? ]
『まだ、パパ起きてるみたいだから、お願いしてみよう?』
[ok……]
書き直して貰えるかな?と言ってるみたいだ。
何の話なんだろう……。
スキアとスカイは部屋を出て、両親の元へ行く。
[ Dad, I want you to rewrite the letters on the neck. I can't speak. ]
『え、そうなの?分かったよ、みせて?』
スキアは首元を見せ、九龍さんは特殊なインクで呪文を書いて行く。
ラテン語で書いてあるから、流石にボクには読めないけど、アレがあるから声が出るのかな……?
『ァ……あーっ……あ!でたぁ!おとーさん!ありがとぉ!』
……えっ?これスキア?え?
『良かったねぇスキア!おはなしできるねぇ!』
『うん!スカイ!おはなしたくさんできるねぇー!』
キャッキャと飛び回る2人。
『良かったわね2人とも。さぁ、もう寝る時間よ?』
『『はぁーーーい!!!』』
ぱたぱたと、自室に走っていく双子。
それを見送ると、外から港が来た。
「輝、今裏口の所から、ベージュのニットを着てるチェック柄のカーキ色のズボン穿いた男の子が入っていった。金髪やし、色白やったし、地元のおとこの子みたいやった。……きた」
目の前には、さっき聞いた情報と同じ容姿の男の子が歩いてきた。手には、不釣り合いな銃を持っている。あれはフリントロック式の懐中銃……だったかな。実戦向きな気はしなかったけど……。
その銃の側面には、あの紋が付いていた。
男の子は、音もなく両親の元へ向かい、ノールックで両親の肩を1発ずつ撃ち抜いた。肩だけならば、あの二人が倒れるわけが無い。そのはずなのに、2人はそこで、緑の光に包まれて消えてしまった。
その後、奥の部屋へ向かう。次は兄と姉の部屋だ。最初に兄の部屋。次に姉の部屋。確実に1発ずつ潰していく。
銃声で異変に気づいたスキアとスカイは、弟と妹を抱いて小さいながらに必死に裏口へ向かっている。
『な、なにあれなにあれ……!』
『スキアにげて!ボクはいいから先に出て!』
『そんな、スカイも一緒だよ!!!』
そう言い合っているうち、男の子は、どんどん近づいてくる。
『ひ、こ、こっち、こないでよぉ……!』
『スキアいいから逃げて!!』
男の子は、紋の書かれた銃ではない懐中銃に切り替えた。
虚ろな顔だ。
『や、やめ……』
カタカタと震える2人に、銃口を向ける。
迷いなく、2人の喉を目掛け撃つ。
2人は喉を貫かれ、その場にもがき倒れ込む。
『かっ……はっ……はっ……!』
普通の人間であれば死んでいるもの。が、死ねないから尚更辛い。
男の子は、2人にその後5発ずつ打ち込んだ。2人は動かなくなる。
『…………こんな、つもりじゃないのに……』
男の子は、その場に崩れ落ち、闇夜に消えた。
この後、スキアとスカイは倒れたままだったが、下の2人が大泣きしていたため地元の人に発見されて、病院へ。
そこにイギリスに出張で来ていた、今の叔父さんに預かられた。
預かられていく途中で、木の影から、あの男の子が泣きそうな顔でスキアとスカイを見つめていたのをボクは見た。
部屋に戻ると、2人はボクの部屋の魚たちを眺めていた。
「おっ、おかえり」
「どうだった?」
「すごく……グロかったというか……」
「あ。……いいや、なんか収穫あった?」
「あぁ、えっと、金髪の男の子だったよ。犯人は。あの紋も見た」
「だよね、よく覚えてるから間違いない……」
スカイは納得しているが、スキアは釈然としない顔だ。が、教えて貰えないと分かっているために、聞きはしなかった。
「ただ、男の子は、『こんなつもりじゃないのに』ってぼそっと言ってた」
「……ふぅん。そっか」
スカイはそれきり、聞いてこなかった。
「んねぇスキア」
「んだよ、輝?」
「あのさ、首の呪文ってなんなのさ?」
「あぁ、これな。これがねぇと俺、今みたいに喋れねぇんだよ。生まれた時から俺、本当は喋れねぇんだ。だから手話も出来るぜ。基本筆談だけど」
「初めて知った……呪文はお父さんが?」
「おう。このチョーカーくれたのも父さん……なはず」
スキアは、曖昧な記憶の中そう答えた。ボクはスキアの記憶を誰が持っているのかは知っている。でも、教えるつもりもない。
ボクは、スキアを傷つけたくはない……。
彼はこの星の未来なんだ……。
「次は真でいい?」
「うん、おねがいします」
真を抜かして、時間遡行を開始した。
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