崩れ行く砂の花

 俺たちは時間を遡って、事件の起こった当日の時刻にやってきた。

 いつでも太陽の日差しで暑いエリアだが、この時期は少しマシになっている。


「あッつぅい…」


 輝はそうぼやくが、そういわれてもこればっかりは変えられない。


 7人で城へと向かう途中にも、行き交う人々、行商人達などの往来で、暑苦しさは更に増していた。

 このエリアは、アラビアンな雰囲気が特徴だ。服装もそれに沿っている。


 勿論、真も例外なくこの服装だ。一見寒そうだがこの気候じゃあ納得も行く。


「ああぁぁついたぁぁ……なんでこんな遠いとこに出たんだよ輝……」

「うるさいなぁ……失敗は付き物だよ光〜」

「まぁ着いたからいいだろ。ほら入ろう」


 豪勢な王宮の扉を開けて、中に入る。時刻は13時だ。


「まだ1時間あるな……。真は?何してる」

「部屋にいるみたいだぞ」


 光は自分の真横にある扉を覗き見ていた。そこは今も真の自室になっている部屋だ。

 一緒に覗き見ると、確かに小さい頃の真が自室で何かをしている最中だった。

 中に入ってよく見てみると、ハサミと木製のクリップ、紐を使って何か作っている。


 正面に回ると、両親とピクニックに行った時の写真、輝と遊んでいる時の写真、輝とのツーショット、兄とのツーショット、家族でテーマパークに遊びに行った写真、美味しかったのであろうご飯の写真などを、クリップで挟んで紐を通して、壁に飾れる飾りにしているようだった。


「ぇぇえぇ〜〜???真こんなことしてたの可愛い〜〜〜〜〜〜〜」


 そりゃあ、自分と写ってる写真が7割だったらそういう反応にもなるだろう。

 輝は喜んだ後、少しめんどくさくなっていたであろう中学生の方の真へゴメンネと言っていた。聞こえないのに。


 また、同じように手分けして犯人の居場所を探す。俺は、残りの家族の様子を見に行く。


 玉座の間に居るものだと思っていたが、どうやら今は王宮内の別の部屋に居るようだ。

 廊下を手当り次第歩いて探してみる。


 …………広い。


「どこだろ……まじで広い……」

「広いねぇ……疲れちゃうよぅ……」


 春歌と2人で探し回る。すると、廊下の突き当たり、日の当たりの悪い箇所に扉があった。


「あんな扉あったか?この廊下……」

「んーん、見たことないよ」


 2人で近づいてみると、呪文の気配を感じた。

 中に人が居るようで、意を決して入ってみる。


「……失礼しまーす……」


 中を軽く見回すと、そこには沢山の蔵書があった。

 どうやらこの書庫らしき場所にあるものは、あらゆる国に関する資料庫のようだった。

 人間の営む国はもちろんのこと、神の国にまつわる物もあり、更には悪魔の営む国、天使の営む国にまで蔵書は及んでいる。


 書庫の更に奥には、国の資料の群からは離れ、魔術に関する資料群になっていた。


 その最奥、1つの本棚の前に、国王が居た。


「何してんだ……?」

「さぁ……?見てみよぉ?」


 俺たちは国王に近づき、手元を見る。

 国王の手は、1つの皮でできた分厚い本を奥に押し込んだ。

 その本は周りに紛れていて、覚えなければまず見つからない。

 本棚も、かなりの数が横並びになっているために見分けるのは難しい。


 本が押されると、本棚は上の空いたスペースへと上がっていく。

 本棚の奥には、空間が広がっていた。その空間は、何かの木の根っこが天井から下がっており、根の下床には円状のガラスが水色に発光している。


 円状の空間の壁には、全ての壁がガラス張りだ。と言っても、何かモニターのような役割で、外側は見えない。


「モニタリング、悪魔界、サタンの城周辺」


 国王がそう言うと、壁は機能し始める。

 壁には、黒い霧に包まれたサタンの城が見えた。あそこには何度か行ったことがある。母親の実家でもあるし、見覚えはある。


「……クソ……。もう始まってるじゃないか」


 国王がそう呟き睨みつけるモニターには、サタン城の周りの至る所に魔法陣が描かれていた。


 その魔法陣の中央には人間が生気を奪われ座らされている。


「なんだあれ……!?」

「ひぇ……不気味だよぅ……」


 国王は何か考え込んでいる。そしてボソボソと呟く。


「何を呼ぶ気だ、コイツ……?どう考えても正規の方法では呼ぼうとしていない……。何体だ……?いや……まだ未完成の方陣……だよな。光が足りない……となると発動はまだ数十年かかるか……?」


 ブツブツと言っているその言葉は何を指しているか分からないが、良くないことをしようとしてる事だけは分かる。


 その言葉を俺たちが噛み砕いていると、突然国王の元へ何かが走り抜けていった。


 それは小柄で、フードを目深に被った作業着のような服装の少年だった。

 少年は音も立てず、気配を完全に絶って、国王の背中を大きなハサミで切りつけた。

 ハサミには、あの封の紋章。


「犯人……!!!」


 国王は不意を突かれ、声も挙げぬままに光となって消えていった。


 そして少年はふと立ち止まる。

 消えていった国王の立っていた場所を見つめて、小さな声で呟いた。


「……すくなくとも、あと200年……。数は、5柱……。ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい、国王さま……」


 そう言って、少年はまた走り去って行った。


 どうやら、他の家族はもう既にやられた後で、最後が国王だったらしい。


 他の仲間とも合流し、報告し合う。


「とりあえず、真の方にゃァ犯人は来なかったぞ。けど、家族がやられて執事たちも全員気を失ったからって妙に静まり返って、そんで部屋から出てきたらコレだ」

「そっかそっか……。こっちは、犯人の最初の位置は王城の入口。正面玄関だった。堂々と入ってきたけど、一切音も立てずに、メイドたちを掻い潜って狙いに行った」

「国王は、国王の自室がある奥の廊下の突き当たりに術で隠してある扉があった。けど、国王が入ってすぐだったから俺達も入れたな。そこは書庫で、あらゆる国についての蔵書があった。書庫だな。あとは魔術書とか。そんで、1番奥の本棚のカラクリ解いた奥に、モニター張りの円状の空間があった。国王はそこでやられたな」


 俺と春歌が見聞きした事を、そのまま伝える。このままここで思案するより、真の元に戻ってからにしようと、全員一旦輝の部屋に戻った。



「真、ただいま」

「あ!おっかえりい!どーだった?」

「んまぁ……犯人はフード目深に被った少年で……デカいハサミが武器だった」

「ハサミ……」

「なぁお前、国王の自室のある廊下の突き当たり……分かるか?」


 ダメ元で、真に聞いてみる。

 もし知らなかったら、後で実際行ってみるまでだ。


「ああ、知ってるよ!んと、まぁ俺が次期継承者だから知ってるんだけど……そこがどうかしたの?」

「国王は、そこでやられた。あの書庫のさらに奥のモニタールームでだ」

「え……。あそこに?あそこにその犯人は入ってきたの?扉は入ったら数秒で消えるのに……」

「おかしいんだ。数秒で消えなかった。俺達も入れたんだよ」


 俺たちは、少なくとも国王が入った1分後くらいに入ったはずだ。なのに扉は見えたまま。


「そこで、お父様が何かしてるの見たんでしょ?なら、同じことしてみようよ。場所と入り方は分かる」

「そうだな……。はぁ、やることが増えてきた……。んで輝、最後はお前だけど」

「あぁー……ボクは……ボクは、いいや。騒動の中に居たし……犯人の顔もわかるし」

「……けどよ、その犯人がなにか言い残してたりするかも知んねェだろ?」

「……………………。じゃあ、ボクは……街にいる。……見たくないんだ」


 輝はそう言って俯く。それもそうだろう。二度とあんな悲惨なものは見たくない。


「それでいいよ輝。少しの情報でも欲しいからさ」

「……わかったよ……」


 輝はとても気乗りしていないが、渋々と手を動かして全員を時間遡行させる。


 光に包まれて目を開けてみるとそこには、今居る所と同じ王城と、城下の煌びやかな街並みが見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る