舞い散る紅葉

 涼清の記憶に飛ぶと、俺たちの目の前には11月の後半だと言うのに、沢山の紅葉が舞っていた。

 紅葉の絨毯の視線の先には、幼い涼清と、涼清の父親の涼夜が居た。

 縁側に座り、少し長くなった涼清の髪の毛を、父親の涼夜が結っている所だった。


「わぁ、懐かしなぁ、今の涼清ってセミロングやけど、こん時の涼清はもう少し長かったんよねぇ。えらいまぁかいらしわぁ」

「あの口悪い狐がぁ……?アレェ……?可愛すぎじゃないちょっと?」

「俺顔が可愛くても口が悪いやつ知ってるよ」

「誰?スキア」

「え?お前だよ輝」

「喧嘩売ってる?」

「買わなくていいぞ」


 後ろの部屋に掛かっている時計を見ると、時刻は13時。マメな性格の父親なのだろう、その下に掛かっているカレンダーには、過ぎた日に斜線が引いてある。そのため、今日は11月22日で間違いなさそうだ。


「あっちにボク達のことは見えてないから、隠れなくていいんだよ?」

「あ、そなん?んじゃあ探索しよ。……この時点で敵のいる気配は?」

「特に感じへん。せやけど、気配隠すんが上手いとは思うで。涼清のおとんがやられるくらいや」

「それもそうだな。手分けして探索してみよう」


 7人で手分けをして、涼清の家を隅々見ていく。

 俺は、2人の周辺を重点的に探索した。

 二人の会話が聞こえてくる。


『おとぉ、あした、ゆーえんちいくんやろ?んなぁ、じぇっとこーすたーのりたい!おれ!』

『ホンマに乗れるんかぁ〜?まだ身長足りひんとちゃうん?』

『ほいくえんでも、たかいんやぞ!いちばん!』

『ほぉ〜?今何センチやおちび』

『んと、んと、ひゃくじゅーご!!』

『おっ、高いやないのホンマに!せやけどまぁだ足りひんわ、もっとおっきくなりやぁ』

『ええええ〜〜〜』


 ……あんな奴だけど、可愛い時もあったんだな。それ以上に……。やっぱ、悲しいよな、すごく。


 微笑ましい場面に更に、母親と兄も出てきた。


『んなぁーーおにぃ!おれかてじぇっとこーすたーのれるやんなぁ!?』

『んー?ジェットコースターにせーちゃんがぁ?……んんー。乗れやんな、まだ』

『やぁだあああ』

『ふふっ、涼清、ほんならお母さんと観覧車に乗らへん?おとんなんて放って』

『ええの!?のる!!!』

『なんでやん芽々めめ〜!そこは俺も乗せてや〜ラブラブしようやぁ〜』

『こないな歳なって何言うてはりますのん?んまぁ恥ずかしわぁ』

『おとん息子の前で言うんそれ……?』

『彼女おらへん99歳に言われたないわな』

『おとん?????酷ない?????』


 この微笑ましい光景の端に、俺は、何かの影を捉えた。

 小さい子供の影。しかし、気配を全く感じない。


 その影を見た方向に走る。


 しかしそこには何もおらず、辺りを見回す。


「……どこだ……?」


 目を凝らしてもどこにもいないが、港が木の上から俺を呼ぶ。


「どうした、港」

「あれ、見てみぃ。うちの家の魔桜の上。子供がおる」

「……ほんとだ、黒髪に……白と黒の巫女装束……?」

「……せやけどあれ、男の子やない?」

「……わかんねぇけど、女ではなさそうだな……」

「近くまで寄ってみよや」

「おう」


 上空から近寄ると、虚ろな顔をしている男児だった。辛うじて男と分かるレベルの、可愛い子供だ。


「おい港、今何時だ?」

「……13時59分」


 急いで俺は、あの家族の元へ戻る。

 時計の長針が、12を指した。


 そして、その瞬間に、縁側に座っている4人のうち、大人3人の元に、御札が飛んできて胸に深く突き刺さった。


『……!?』

『なん、よ、これ?』

『ひ、ぁ……』


 3人は、自分の身に起こった事実を受け入れられずにいる。

 そして、幼い涼清は……


『お、とん?おかん?おに……』


『ぁ、あ……?』


『いや、え?……なに、なんで?おとん、おかん?おにぃ?なんかいうて?なんで、なんで……ちが、でとるの……?』


 声がだんだん震えてきている。理解したくなくても、目の前で確実に起こっているその事実から目を逸らせずにいる。


『おとっ……』


 父親を呼びかけたその時、涼清の頭に石が飛んできた。普通の石ころよりも大きいサイズの、重い物だった。


 そして、涼清はそこで地面に落ち、気絶したようだった。


「…………」

「……スキア」

「……俺も、詳しくは知らなかった。……こんなことがあったなんてな……」


 7人がその現場を目撃した、そう思った瞬間


「スキア!あの子供、消えた!」

「は!?まて、港の方も叫び声が」

「……!!皆!帰るよ!!」


 輝がそう叫ぶと、目の前は一瞬にして輝の自室へと変わる。


 そこには、目を瞑り居眠りしている涼清が居た。俺たちの気配で目を覚ます。


「ん……。おかえり。寝てたわすまん。……んで?なんか、わかったかー?」

「あぁ……。子供が、港の家の魔桜の上にいた。黒い髪を下で結った、巫女装束の男の子」

「……!そいつが、犯人……?」

「……おそらくな」

「それと、御札の文様も手に入れた。……俺の家族に落ちてきた岩にも、同じものがついてた。思い出した」


 その文様には、今までに見たことの無い呪詛紋の真ん中に「封」と書かれていた。


「……どう見ても、封印の紋だな。でも、この形式は見たことがない」

「けど、これのせいで封印が発動したんだろォ?」

「そうなるな」

「まだ俺の記憶だけだ、分からねェのも仕方ねェさ。次はどうすンだ?」

「……ほんなら、次は隣のウチやないやろか?頼んます」


 港が名乗り出たため、次の記憶旅行は港だ。


「あぁ、そういや涼清」

「ンだよスカイ?」

「涼清の家で、11月の後半なのに紅葉があったのはどうして?あのくらいの時期なんて、もう散ってるよね?」

「あぁ、あれな……。親父の妖力の貯蔵庫になってたんだ、あの紅葉。けど、親父が今は居ねェから枯れちまってる。親父の妖力のせいで妖樹になってな、年中赤くなってたンだ。港の家の魔桜みたいなもんさ」

「そっか……」

「……気絶した後の事はよく覚えてねェ。けど、俺にだけは普通の石が飛んできた、それだけは分かる。なンのつもりなんだ、その子供は……」

「アレが当時の俺たちと同じ見た目をしてたんだ。もしかしたら今は、大きくなってる」

「あァそうだろうな。さて……そいつの姿見に行くとしますか」


 涼清は立ち上がり、俺たちの輪に入る。代わりに、港が抜ける。


「ほんなら、うちの事頼んます。……えらいうるさいかも知らんけど、堪忍ね」

「いいよそのくらい。しっかり見てくるからね」

「おおきになぁ輝」


 さっきのように、輝の周りに固まる。


「それじゃあ遡るよ。日付は11月22日の13時、港の記憶」


 そう唱え、また時計に包まれていく。


 手を振る港を最後に、また、視界の景色が変わった。

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