桜の下には

「昨日は心配かけてごめんな。丁度港も帰ってきたみたいだし...」

「体調は良さそうだな。海ちゃん居て回復したんだろ」

「っせぇよンなんじゃねぇつの」

「照れんなって」


 光の元気な姿を見て、俺達は安心した。滅多に発作を起こさない光だから、起こす度不安になる。

 でも、昨夜光の好きな人が来たためにいつもより機嫌が良さそうだ。


 俺達は次に話をしなければいけないメンバーの家に向かうため、光の家をあとにした。

 と言っても隣なのだが、なんせ一軒一軒デカいために隣の家の扉が見えない。

 港の家には行ったことないし.....いやホントに何処だよ。


「みーーなとーー!! いるか〜!?」


 叫んでみるけど返事はないし...。


 しばらくスカイと歩き回っていると、返事の代わりに琴の音が聞こえてきた。ふと、木造の高い塀を見上げてみると、塀の中から桜が見えた。この時期なのに、桜なんて咲くか.....? と思いながら、光の家の玄関とは反対側の通路に回ってみると玄関が見えた。

 表札には「桜」と書いてある。


「おっ、ここだ!」


 港の家を発見したので、インターホンを押してみる。毎度思うが、この和風家屋に不釣り合いな近代のインターホンだな.....。


『はい』

「あ、えっと、桜港の友人の、花園と申します。港さんは...」

『あぁ、居ますよ。少々お待ちくださいね』


 爽やかな男性の声はそう言うと、玄関の方へ出てきた。

 白くて長い髪の毛と真っ白な肌と整った顔立ち、そして身長が高い...。誰なんだろう.....。


「初めまして、私、当主側近の雪男と申します。こちらです、ご案内致します」

「ありがとうございます」


 雪男さんに連れられるまま、長い廊下を3人で歩く。


「お二人のお名前は?」

「天使やってます、花園・アメリー・スキアです」

「同じく、スカイです」

「あぁ、貴方がたでしたか。当主がよく話をされますよ。この家に来るのは初めてでしょうか?」

「はい、初めてです」

「後ほど、またご案内致しますね」

「ありがとうございます!」


 穏やかで優しい人だなぁと思っていると、あの琴の音が聞こえてきた。

 あの不思議な桜の木の下からのようだ。


「雪男さん、あの桜、何でこの時期でも咲いてるんですか?」

「あぁ、あれはこの家の魔桜ですよ。この家の、あの土の上にしか咲かないのです」

「いつでも咲いてるんですか?」

「はい、あの桜は万年咲いておりますよ。ほら、当主はあの木の下に居ります」


 見てみると、そこにはつんつんした赤い髪の毛の、薄桃色の着物を着た少年。大きな琴を置いて、桜の下で奏でている。


「スキア、スカイ。...知っとります?桜の下には、死体が埋まっとるんやって」

「.....どっかで聞いた話だなぁ」


 俺達の存在に気付いていたのか、京訛りの強いしっとりとした声で怖いことを言い出す。

 この家の当主、さくらみなとはそういう奴だ。


「どうしはったん?ウチの家に来たんは初めてやね」

「知らせたいことがあるんだ。光にはもう伝えた。京都組はお前と涼と春だよ」

「さいですか。ほんなら、雪男、居間に案内したって。ウチはこれ直してから向かいます」

「分かりました」


 俺達はまた、雪男さんに連れられ居間に向かった。

 港の家に居る妖怪達は、皆見た目は美しくてとても穏やかそうな人ばかりだと、すれ違う度思う。


「なんか...友達の家なのに光るんちとは違って緊張するな...」

「だね...なんか空気違う...」


 居間に通され、机に並んで座る。雪男さんは離れたが、入れ違いに別の人が来た。


「...君達か、主がよく話してた天使は。...ふーん。なかなか綺麗な人達なんだね」

「え?ぁ、ありがとうございます...?」

「スキアとスカイだっけ?俺は牛鬼。お茶好き?」

「え、えぇ」

「良かった。はいどーぞ」

「ありがとうございます」


 牛鬼さんは俺たちの前に2つお茶を置いて、そのまま戻っていってしまった。


 さっき廊下ですれ違った時、牛鬼さんは女の妖怪さんと親しげに話していたのを見た。何だか特別な雰囲気があったし、付き合ってるのかな。


 暫く待っていると、港がやってきた。


「えらいすんまへんなぁ待たせてしもて。琴の倉、遠いんよ」

「ほんとデカい家だよな。光の家から来たのに暫く入口わかんなかったし」

「あは、光んちとは反対側に入口あるさかい、しゃあないですわ」


 港はしなやかな動きの後、綺麗に座る。緩く着物を来ているせいで、色々な傷が見えてしまった。


「...家だとガード緩いんだな、見えてるけど良いのか?」

「ええんよ、家のモンに隠す必要あらへんやろ?」

「それもそうだな」

「港は、京都にいる方が安心?」

「そやなぁ...東京にはあの男が居るさかい、安心は出来へんしな...」


 港は着物の襟口を少し狭めて傷を隠す。


「ほいで、話はなんやの?」

「あぁ、じゃあ本題入ろうか」


 俺達は港にも同じ説明をする。

 すると、一瞬驚きはしたがすぐ穏やかな顔になった。


「ほーん、なんや面白そやねぇ。ウチは飛べる側やから、飛べへん2人の内片方を乗せればええんやな?」

「そう。早くて助かる」

「そういう事だったんなぁ。ウチはええよ。なら次は涼清やろけど...今居るんやろか...?」

「LIFEしてみるね」


 スカイは涼清にLIFEを送ると、数分後に連絡が返ってきた。


『すまん、今青森』

「青森だって。『撮影?』」

『そう。春歌と撮影終わりで京都に向かってる』

「今京都向かってるみたい。『分かった、話があるから、待ってるね』」


 その日は港の家に泊まることにして、明日は涼清の家と比叡山の近くの山に向かおう。



 夜になる前に、2人で港の家を探検した。見つけたのは、光の家が見える塀の穴と、女妖怪達が女子会(めちゃくちゃ怖い愚痴から恋バナまで)していた場面と、男妖怪が男子会(ちょっとエッチなはなしからちょっとした愚痴と恋バナ)をしていた場面、広くて綺麗な台所、港の部屋、あとはトイレと大きなお風呂場...とにかく広かった。

 俺達は面白そうなので、男子会に混ざってみた。


「お、珍しい人達が居るね」

「これはどうも、さっきぶりですお二人とも」

「おー、天使じゃん」

「オイラこいつら知らない!ダレダ!」

「初めまして、俺は花園・アメリー・スキア。こっちは双子の弟のスカイ。どっちも最上級階天使やってます。港の同級生で同じアイドルグループのリーダーと副リーダーです」


 なんか顔が美しい3人と黒猫又が1匹。そのうち2人は雪男さんと牛鬼さんだ。


「初めまして、オレは牛頭ごず馬頭めずは寝てる」

「よろしくお願いしますね。所で何の話を?」

「ぐち〜。あとは恋バナ?」

「恋バナかぁ...港の恋愛ネタなら豊富にありますよ僕ぅ」

「え!?マジでか!?主の恋バナ!?!?」

「って言っても、本人が昔話してくれたことであって、今女の子がいる訳じゃないんですけど」

「聞きたい聞きたい!な!牛鬼、雪男、猫又!」

「聞きたいニャ!!きになる!!」

「興味ありますね...当主、そういう話してくれませんし...」


 これはやたら食い付きがいいぞ。ほんと恋バナになるとスカイと言うやつは。


「これは港が4歳の頃だったかな。保育園で同じヤグルマギク組だった、雷華ちゃんという女の子がいて。その子と一緒によく遊んでたらしいんです」

「雷華ちゃんって、あの、小さい頃よく港に会いに来てた?」

「多分。港もその子の事が前から好きだったみたいで、この先ずっと一緒に居るもんだと思ってたらしいんですよ。でも、雷華ちゃんは途中から引っ越してしまったらしくて、それきり会ってないみたいです。でもまだ忘れられないらしいですよ」


 こうしてペラペラ喋ってると絶対お決まりのパターンがな?

 あっほら足音がする。


「へぇ〜〜〜〜!!!青春じゃーーーん!!」


 元気に反応する牛鬼さん。これはあのパターンだ。


「なぁんや?雷華の名前聞こえたんやけど。スカイあんさんやろ?お仕置きせなあきまへんなァ?」

「アッ!」

「何がええ?あの桜の下に埋めてやりましょか?」

「ゴメンナサイ」

「まぁええわ...と言うか、もう夜やで、はよ寝んさい」

「はーい」


 俺達は港に言われるまま、客間に向かった。ふと向かう途中であの桜を見ると、月の光と桜のピンクが輝いてる中で、人影が見えた。

 いつの間にか桜の木の枝に座って、月を見上げている港だった。

 赤葉猫せきようびょうは孤独な妖怪。1人でフラフラと、月の光の下で人を見つめ去っていく。去っていく時に、周りの木々はざわめいて、赤葉猫を見送るようだ。

 港の種族の伝承だ。


 港の孤独そうな背中が、やけに目に残った。

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