木ノ下家

 光の家、木ノ下家は妖怪の中でも「妖怪五柱ようかいいつはしら」という、トップ五家の中の1つだ。

 種族は音犬おといぬという。

 そんなお偉いさんの家だから物凄く広い。

 光に連れられるまま泊まる部屋に案内される。そこは前まで光の兄が使っていた部屋で、今現在は客間にしている。日当たりもよく、鳥の鳴き声がよく聞こえるためにこの部屋にしたらしい。

 光の部屋はその隣だ。



「着替えとか無いだろうから、そのタンスの中のやつ使ってくれ」

「ん、分かった。光はこれから何するんだ?」

「とりあえず夕飯の準備かな…お前ら何食いたい?」

「ん〜、じゃあ僕光の作った肉じゃがが食べたいなぁ」

「お前は作らないのな...」

「俺も光が作った肉じゃが!」

「わかったおーけー把握」



 光はそそくさと台所へ行った。

 俺達は光の家自慢の温泉に1度は入ってみたいと思っていて、今日は念願の温泉に入れるということでスキップをしながら温泉に向かった。



「おっ、広いなー」

「だねぇ!あ!首無さん!」

「ぁあ、ご友人の方々。どうも」



 光の家、木ノ下家の中でも古株の首無さんは、光のお父さんにも負けないくらいイケメンだ。

 茶髪の髪は地毛だと言っていた。

 三白眼も人によってはコンプレックスだが、首無さんは三白眼でさらにインテリに見える。


 実際頭もいいし観察眼も鋭くて、光の右腕としていつもそばに居る。



「首無さん、光のそばに居ないなんて珍しいですね」

「はは、いえ、当主様はあまり長く一緒にいると飽きると仰っていまして.....」

「あー、まぁ光はそういうやつですよね」

「そんな自由なところも可愛らしくて好きですがね」



 光の自由さにここまで寛容になれるのは、光が赤ん坊の時から面倒を見てきたからだろうか。

 光の両親も上の兄弟も今は居ない。俺たちの親同様の封印で、眠っている。

 所在もわからず、今は解く方法と場所を模索中だ。

 光には双子の妹がいて、その子はまだ今日は会っていないが、多分会うだろう。


 光の両親と上の兄弟は、光が5歳の頃に封印された。

 その日、光と両親と兄弟は全員でドライブに行っていたそうだ。

 ドライブの帰り道、崖沿いの道を走っていると、光の耳に「ゴロ.....」という不穏な音が聞こえたらしい。

 それから数秒後、勢いをつけて落ちてきた大岩に車ごと潰され、下敷きになった。

 普通はそれだけでは妖怪達は死ぬことは無い。だが、光の目に映ったのは、もがき苦しむ兄と姉、同じく下敷きになっていた父親と母親の

ひかりと一緒に逃げて、ひかる

 という言葉と、優しい笑顔だった。

 血塗れの現場から逃げようとした途端、目の前の兄弟も両親も淡く光だし、消えてしまったと言っていた。


 その上の岩をよく見てみると、おかしな模様が付いていた。それは詳細には思い出せないらしいが、同じものを見たらきっと思い出すと本人は言っている。


 この思い出のせいか、光は事故のニュースや話を聞くと震えが止まらなくなる。



「当主様は頑張っておられます。京都にもあの学校があれば良いのですが、なんせ本校は東京で寮に一人暮らしでしょう?たまに心配になるのですよ」

「光の寮のへやに、俺達たまーに遊びに行くんですけどね。だいぶ楽しんでるみたいですよ。ひかりちゃんの部屋に行ったり、光ちゃんが部屋にきたりで」

「そうなのですか.....! あぁ、それを聞いて安心しました……」



 首無さんはほっと息を吐き、安心した顔になった。



「あ、そぉだ!首無さん知ってます?光の好きな女の子のこと」

「え!?と、当主様に、お、想い人がいらっしゃるのですか!?」

「そうなんです、居るんですよ.....!僕が教えてあげましょう.....ふふふ」

「ぐ、な、なんだか悪いことをしている気分ですね.....」



 スカイはこういう恋バナが大好きだが、スカイ自信は恋バナのネタが無いので人をネタにする習性がある.....。



青梅おうめ うみさん、僕らの隣のクラスのAクラスで、スポーツ系の美少女なんですけど...小学校から一緒なんですよ。ほら、小学校までは首無さんも一緒に住んでましたし、聞いたことありませんか?」

「.....!あります、青い髪の毛の、海の妖精の娘さんだとお聞きしております」

「そう!最近、光はホントにその子のこと好きみたいで...お昼ごはん一緒に食べたいから、昼休みに誘いに行ったりしてるんですよ!」

「な、なんて可愛らしい話なんでしょうか!!」



 と、そんな光の恋バナを勝手にしていると、話題の本人が温泉に繋がるドアを勢いよく開いた。顔が赤い。



「よ、余計な話すんなスカイ!!!」

「あは、流石音犬、聞こえてたんだねぇ」

「聞こえてたんだねぇじゃねぇよ!!恥ずかしいだろバカ!!飯できたからさっさとこい!!」

「はぁ〜い」



 光は真っ赤な顔でひとしきり騒いだ後、ズンズンと居間に向かっていった。

 光のああいう反応が面白いんだろうなスカイは。


 俺達は風呂から上がり、着替えをして台所に向かった。

 そこには光の他に毛倡妓さんと二口女さんがいた。二人とも美人だ。



「うまそ〜...」

「ふふ、そん肉じゃが、坊ちゃんが作りはったんですよ」

「俺とスカイでリクエストしたんですけど、ほんとに作ってくれたんだな!ありがと光!」

「おう、スキアはたんと食えよ〜!スカイお前は人の恋バナを勝手にバラしやがったから食うな」

「やだ〜!!」



 そんなこんな賑やかに夕食を食べ始める。

 光は和食が得意でよく作ってくれるんだが、俺は光の肉じゃがが一番好きだ。



「光、最近心臓の方は大丈夫?」

「ん、おう。最近は落ち着いてる〜」

「無理したらダメだからね?」

「うーい」



 スカイに心配され、それに適当に返事をする。

 光の心臓には疾患があって、深刻でもないが無理はできない。

 でも走ることが好きだからって陸上部に入ってて、俺としては少しハラハラしてる...。


 そして美味しいご飯も食べ終わり、寝室に行く。光の家は月の光がよく入ってきて、凄く居心地がいいんだよな。


 今日は、ゆっくり眠れそうだ。

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