平和な日

「別に乾かさなくても……!」

「いいから! 風邪ひくでしょ! 身体弱いんだからちゃんとして!」

「むぅ……言い返せねぇ……」



 美妃は、俺の長めな髪の毛を優しく乾かしていく。

 美妃はいつも、こうやって乾かしてるからその長い髪もつやつやなのかな……。


 そうやって、観念して乾かしてもらっていると、皆の部屋に続く焦げ茶色のドアが開いた。金色のドアノブがゆっくり回り、隙間からこちらを覗いてくる何かが見える……。



「朝から……お熱いですね……昨日は僕を求めてきて……次は、次は本命の……」

「やめろ!!! 言うな!!! スカイそれ以上言ったらお前アレだからな! あの、あれだ!俺に1ヶ月ボディタッチ禁止!!!」

「あ! 無理! きつい! 無理! 言わない!!」

「よろしい!」



 ……えっボディタッチ禁止そこまで効く???

 スカイはそれ以降何も言わなくなった。

 が、続々と起きてくる



「あれ?美妃じゃないどうしたの?スキアの髪乾かして」

「あっ、えと、これはその……!」

「スキア良かったねぇ!!!」

「やめろその笑顔!」



 こんなやり取りがしばらく続いて、昼時まで居た美妃もご飯のために家に帰った。



「ところでスキア、なんで美妃ちゃんがうちに?」

「あー、これ届けに来た」



 俺は美妃が持ってきたあの地図を渡す。地図は天界のもので、天界全域の果てまでが記載されている。

 が、どうやらお祖母様の言っていた「モノクローズハウス」は地図に記載されていないようだ。



「これでその「モノクローズハウス」? に行けってこと?」

「だと思うぞ。ほら意味ありげに果ての方にバツ印がついてる」

「あ、ほんとだ。...天界の官僚本部からだいぶ遠いよ?ここに1番近いワープゲートって、ノルウェーだよ...?」



 世界地図と見比べながら、スカイはそう呟く。が、ワープせずとも行ける方法を思いついた。



「いや、神の国から行けるはずだ。神の国は天界よりも大きい。真上に有るし、リスクは有るが飛び降りる手もある」

「確かに、僕らは飛べるから安全だけど…飛べない2人は?」

ひかる春歌はるかか?涼清りょうせいみなとに掴んでもらえば良いんじゃないか?」

「それもそっか」


 天界のちょうど真上に、高さはかなりあるが神の国が存在する。

 エリア毎に分かれており、それぞれが国として機能しているために大きさがかなり有る。


 その神の国の端から飛び降り、天界に降りる。かなりの高さでリスクは拭いきれないが、飛べる俺たちであれば、天界の果てに近くなる筈だ。

 神の国の果てには到達できないが、大地エリアの王城の後ろに大きめの穴がある。そこからならば飛び降りることが出来るし、そこも中々に端なために、果てへ近くなるのだ。


「...でも、飛び降りるのは大地エリアでしょ?大地エリアの真下はこのバツ印より100kmくらい離れて...」

「制限速度ギリギリで飛べばそんなの大した問題じゃない...港と涼清が着いてこれる範囲だけどな」



 事務所の社長は、俺達の目的を理解してくれていて、それ関連の活動で時間を要するのであれば優遇すると言ってくれているから仕事とかの面は今は考えなくてもいい。

 その「モノクローズハウス」に何があるのか、ソレが一体、なんの鍵になるのか。

 それを知るために、今は行く方法、かかる日数、用意するものを考えるだけだ。



「行く方法は良しとしようか。...今は長期休暇中だから、多分、京都組は京都に居るよね…?」

「多分、東京の学生寮には居ないだろうな…」

「...行くかぁ。とりあえず、手始めに今日暇な光にLIFE送ってみて」

「ん...」


 スカイが『今どこにいる?何してる?』と送ると、秒速で既読がついて『実家で鯉眺めながら傘下の首無とお茶飲んでる』って返ってきた。相当暇だぞコイツ。

『話があるから、京都に今から行くね』と送る。光からは『おけ、待ってる』と返ってきたようだ。

 となれば、俺達は早速身支度をして、ゼルク、リル、鞠に事情を説明する。



「鞠、今からちょっと京都行ってくる」

「は??」

「理由はめんどいから察してくれ、兎に角、なんかあったら電話して。んじゃゼルクとリルよろしくな」

「いや待って、待って、急だってそんな!」

「止められても無理!じゃ!行ってきます!」



 俺とスカイは少しの荷物を持って、外に出る。

 出た瞬間、目を瞑り心の中で「変化」と呟く。


 すると、俺の周りには白く輝く光と風が、スカイの周りには黒く深い闇と風が渦巻き、ソレが解けると姿は変わる。

 青と黒の軍服に、俺は純白の翼、スカイは漆黒の翼を三対背中に生やしている。

 その翼を広げ、空に飛び立つと、飛行法(空を飛ぶ種族に共通の天使が取り決めた法)ギリギリの速度で京都へと向かう。

 片手で収まる時間内に京都に着き、京都の街中を歩く。

 すると、大きな日本家屋、豪邸が三件並んだ道に出る。その中央が光の家だ。


 門の横に付いたインターホンを押すと、インターホンから「はぁい、スキアはんとスカイはんどすか?それでしたら、勝手に入ってきて結構どす」とはんなりした女性の声がする。

 多分、毛倡妓けじょうろうだ。


 お言葉通りに勝手に入り、多分居るであろう中庭の縁側に向かう。

 かなり広いし、そこまで来たことがないので少し迷いはしたが、庭に面した廊下を右に曲がると、簡単な浴衣姿の、黄色い天然パーマの小柄な少年が見えた。

 光だ。


 光は俺たちに気づくと、団子の串を咥えて団子を食べながら、手を振ってきた。



「おはよ、光。みたらし?」

「ん、スキアもみたらし団子食うか?」

「俺はいい」



 光は団子を口いっぱいに詰め込みしっかりと噛んでから、緑茶をぐいっと飲み干した。

 満足した顔をしてから本題を切り出す。



「んで、話って何?」

「あぁ、ちょっと3人になりたいから、首無には悪いけど少しいいか?」

「ん。首無、ごめんだけど、ちょっと猫又とかと遊んでやってて」

「分かりました当主様。お話終わりましたら、お知らせください」



 首無は光の隣から席を外し、俺達は3人になる。


 光にこの「モノクローズハウス」の事、場所、行き方の方法を説明すると、光はすんなりとうなづいた。



「そのモノクローズハウスに行けば何かわかるんだろ?それなら、行くしかねーな!多分、社長はすんなり休ませてくれると思う。その距離なら夏休み中に行けるし、飛び降りることにリスクは有るけど、飛べるのが6人もいんだから大丈夫だろ」



 光はそう言うと、ニカッと笑いまた団子を食べ始めた。

 その日、涼清も港も帰ってこないが比叡山辺りまではちょっと疲れるのでそのまま泊まることにした。

 さて、明日は港に話をしに行こう。

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