第14話 習志野栞の本心 2
学校についてからも習志野による猛アピールは続いた。
休み時間には必ず俺の席までやってきて他愛のない話をしたり、昼休みは手作りの弁当を半ば強引に押し付けたりと、習志野は一日中どこへ行くにもべったりとくっついてきた。
そして、俺は今、男の最後の逃げ場所、男子トイレに来ている。
「はぁ……あいつ、限度ってのを知らんのか…」
一人で呟いていると、自然と溜息がこぼれる。
「やぁ、辰巳君。お疲れみたいだね」
不意に声をかけられ、目だけで誰かを確認する。まぁ、この鬱陶しい程の爽やかボイスで誰だかは大体察しが付いているが…
「何か用か、葛西?」
「いやいや、ただ辰巳君が疲れてるみたいだから心配でね」
「大きなお世話だ」
「つれないなぁ。――それにしても、栞ちゃん、可愛いよね?」
葛西は俺の反応を楽しむかのように習志野を話題に出してきた。
習志野のことで俺を揺さぶるつもりか?どの道こいつに隙を見せるわけにはいかんな…
「何だ、急に?もしかしてアイツに惚れたか?」
俺はあえて挑発的な態度を取る。
しかし、葛西から返ってきた言葉を予想外のものだった。
「いやぁ、それはそれで面白いんだけど…今回は既に面白いことになってるんだよね」
「…どういうことだ?」
「彼女、他の男からラブレターもらってるよ」
「!!」
正直驚いた。今日一日ずっと一緒にいたがそんな素振りは一切なかった。
デマカセか?
「いやぁ、良い反応だね!それでこそ教えた甲斐があったってもんだよ!」
「そんな下らん冗談に付き合ってやる程俺は暇じゃないんだよ」
俺はそう言い残して、さっさとその場を去ろうとするが…
「いやいや、本当だよ。彼女って結構人気あるんだよ?」
そう言って葛西は生徒端末の画面を見せてきた。
そこには…
「習志野栞…ファンクラブ…?」
「そうそう。昨日の今日でファンクラブができちゃうなんてすごいよね。まぁ、彼女見た目はロリ系でかなり可愛いし、性格もちょっと天然で純情、男が好きそうな性格してるじゃん?ファンクラブができたり、ラブレターが届くくらい、まぁ不思議ではないよ」
確かに習志野は可愛いとは思うが…まさかここまで人気があったとは…
っていうかアイツはラブレターに対してどう返事するんだ?
と、そこで俺は自分の気持ちの矛盾に気づく。
(なんで俺はイライラしてるんだ?どうせ習志野には断ろうと思ってたわけだし、こいつが習志野にちょっかい出したってどうでもいいはずだろ…)
「いやぁ、気になってるねぇ。でも君は彼女の告白を断るんだろ?別に君が気にすることじゃないじゃん」
そうだ。俺は何を動揺してるんだ!元々俺はあいつとペアを組む気ないんだし、アイツが誰に告白されて、誰と付き合おうが関係ないはずだ…
「まぁ、でもこのタイミングで告白されれば、さすがに栞ちゃんもOKするしかないでしょ。――なにせ、今日中に君からOKをもらうか誰かから告白されてペアにならないと『退学』になっちゃうしね」
「……」
俺は黙って葛西を睨みつける。
確かに習志野が退学を免れるためには俺からOKをもらう以外に、他の生徒から告白を受け、ペアになる方法もある。
だが、あまりにもタイミングが良すぎる。
「確かに習志野は客観的に見て可愛い。だが、この恋星高校で、しかもたった一日でファンクラブを作れる程暇で余裕のある奴なんかそうはいない。――何を企んでやがる?」
「さぁ、なんだろう?」
葛西はニヤリと笑った。
いつか俺にちょっかい出してくるとは思ってたが、まさかこんなに早く仕掛けてくるとはな…。だが、逆に好都合だ。
俺は急いで習志野の下へと向かった。
「やっぱりいないか…」
トイレの外で待っているはずの習志野はそこにはいなかった。予想通り。
まぁ、結果オーライだな。――これでおそらくあいつの本心がわかる。そして、場合によっては…
俺は思い当たる場所へと走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます