第13話 習志野栞の本心 1

「これで本当に習志野さんと上手く行くんだろうな?」


 暗い教室の中、二人の男子生徒がこっそりと話している。


「まぁ、それは君次第だね。あくまで僕は少しでも可能性が高くなる方法を教えてあげただけなんだから」

「まぁ、それもそうか…」


 片方の男は自信無さ気に少し肩を落とす。


「まぁまぁ。僕もわずかながら手助けするからさ。君は思いっきり気持ちをぶつけてきなよ」

「あぁ、そうだな!ありがとう!!」


 もう片方の男の言葉に勇気づけられ、小柄な男は気合十分といった様子で教室を出て行った。


「ふふ。彼には悪いけど現状を面白くするためにはこれが一番手っとり早そうだからね」


 そして、残された男はニヤリと不敵な笑みを浮かべるのだった…。


※※※※

コンコンッ


「んあ…?」


 翌朝、俺は目ざまし時計ではなく、自分の部屋がノックされる音で目を覚ました。

 誰だよ、こんな朝早くに!!

 そう思いながら時間を確認すると…


「…8時過ぎか…」


 …結構いい時間になっていた…。あれ?7時半に目覚ましセットしたはずなんだが…

 誰だか知らんが助かった!

 俺は見事な手のひら返しを心の中で完了させて扉を開ける。


「…どちら様ですか?」


 ――バタン

 ドアの前に立っていた人物を確認すると、無言で扉を閉めた。


「ちょ、ちょっとたっくん!?なんで閉めるんですか!?開けてください!!」


 扉の外で習志野栞が騒いでいる…


「おい、ここは男子寮だぞ…」


 あまりにも大声で騒いでいたため、俺は素早く身支度を整えると扉を少し開けて注意する。

 ここ恋星高校恋愛学科では生徒全員が寮生活を送るのだが、男子寮と女子寮は建物が別れているはずだ。


「はい。でも異性の寮への立ち入り禁止っていう校則はなかったので…来ちゃいました!」


 来ちゃいました!じゃねぇだろ!そんな校則なくたって…え?マジで…?


「…ちょっと待て!言い方が違うだけでそういう校則はあるに決まってるだろ!」

「いえ…だって、どちらにしてもペアを組んだら共同生活を送るわけですし…」


 …確かにそうだ…。ペアを組めばどちらかの部屋で共同生活を送るなんていうルールがあるんだ…互いの寮の行き来なんて普通か…。いや、決して普通ではないけど!!


「それより、早く行かないと遅刻しちゃいますよ?」

「うわっ!」


 そう言われて、時計を確認すると…時計は8時15分を指していた…

ここから学校までは5分くらいだが、なかなかにギリギリの時間だ。


「早く行きましょう!」

「お、おい!」


 そうこうしている間に、俺は習志野に手を引かれていながら走っていた。

 こうして不可抗力的に握った習志野の手は柔らかくて温かかった。

 ふと、彼女の顔を見ると、黒髪から覗く透き通る白い肌が少し赤らんでいるのが見えた。


「あ、あまりこっちを見ないでください…」


 チラリとこちらを見て、恥じらう姿は少なからず俺をドキドキさせた。

 だが、同時に…どうせこいつも俺を利用しようとしてるだけだ、という疑念も頭から離れなかった。


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