第12話 有名人 2
そして、時間は進みあっという間に放課後になった。
やっと終わったか…。まぁ、クラスの連中が騒ぎださないうちに帰るか。
俺がすっと席を立つと一人のクラスメートが話しかけてきた。
「氷室君、一緒に帰らない?」
声のする方を振り返り、声の主を確認する。……誰だ、こいつ?
話しかけてくるとすれば習志野だろうと思っていたが全く別の女子で正直驚いた。…そして、俺に声をかけようとしていたのか、習志野もすぐ近くで驚き、悔しそうな顔をしていた…。いや、話しかけるのが遅れたくらいであからさまに悔しがるなよ…なんか見てるこっちが恥ずかしいだろ!
茶色に染めた髪を肩のあたりで巻いており、耳にはチラリとピアスが見える。スカートも思いっきり短くしており、何やら香水の香りが漂っている。見た目はいわゆるギャルと言う奴だ。
「すまん。今日はちょっと用があってな」
「え~。どうしてもダメ?」
ギャル女は俺の机に手を付くと少し屈むような体勢で覗き込んできた。っていうか、近い近い!胸見えてるから!!
少し目線を下げると、服の隙間から胸の谷間が覗いていた。…推定Dカップといったところだろうか…
「す、すまんな。今日はちょっとダメなんだ」
「ふーん。そっかぁ…。じゃあ、また今度ね!」
そう言ってギャル女は手を振りながらその場を去っていった。
「いやぁ、モテる男は大変だねぇ」
再び声がして振り返ると、今度は名前の知らないイケメン男子が話しかけてきた。
…だからお前も誰だよ!
「僕は葛西寛人。よろしくね」
イケメンは自ら名乗り、手を差し出してきた。
こいつ俺の心が読めるのか?
「氷室辰巳だ。よろしく」
自分も名乗り。差し出された手を握り、握手に応じてやった。
改めてイケメン男の容姿を確認する。
明るめの茶髪に白い肌、顔立ちも整っており、細身の長身…正直文句のつけようがない。こいつ早く退学にならんかな…
「ちなみにさっき君が話してた女の子は鈴木アンナさんだよ」
「…いや、別に知ってたし…」
まさかさっきのギャル子の名前を覚えていないことがバレてるのか!?
俺は咄嗟に否定するが、自分でもわかる程目が泳ぎまくっており、全くの無駄に終わった。
「ははっ。無理しなくてもいいよ。僕だって全員覚えてるわけじゃないし」
「そ、そうだよな…」
「僕だって覚えてるのは君みたいな有名人だけだしね」
「…有名人?」
まぁ、大井先生に目を付けられたり、習志野にいきなり告白されたり、確かに有名人ではあるか…
「あぁ、勿論君がいきなり告白されたからっていう理由もあるけど、あれがなくてもきっとみんな君のことはすぐに覚えたと思うよ」
「…どういうことだ?」
「これだよ、これ」
疑問の表情を浮かべる俺に、葛西は自分の生徒端末の画面を見せる。
「生徒なんでもランキング…?」
見せられた画面は『生徒なんでもランキング』と書かれており、各項目のランキングが表示されていた。
そして…
「ここを見て」
「…俺が3位だと?」
葛西の指さすところを見てみると、『学力ランキング』という項目の3位に俺の名前と顔写真が載せられていた。
「そう、君は入試で学年3位の優等生ってわけさ。おまけに見た目も良い方だ」
葛西は笑顔で俺を褒める。何だ?褒めても何もやらんぞ?っていうかイケメンのお前に見た目褒められても見下されているとしか思えねぇよ!
「これで君が有名人で、名前も知らない鈴木さんにいきなり話しかけられた理由が分かっただろ?」
「あぁ、まぁな…」
学力学年3位…他の学校であればその程度で名前を覚えられたり、いきなり女子から帰宅のお誘いを受けることはないだろう。
だが、ここは恋星高校恋愛学科。ペアの生徒ポイントで生徒を評価する学校である。
そんな学校で学校生活の中で大きな割合を占め、ポイントにも大きく影響する『学力』の上位者がちやほやされないわけがない。
「まぁ、君はいわゆる優良物件ってことだよ。この学校のルールでは8日間ペアがいなければ退学だからね。現在フリーで優良物件の君はモテモテってことだよ」
葛西は爽やかな笑顔でそう告げる。
「それで、お前が俺に話しかけてくる理由は何だ?見たところただ親切で情報を教えてくれる奴には見えないんだけどな」
「いやぁ、勉強だけじゃなくて頭もキレるみたいだね。――まぁ簡単に言うと、面白そうだから、かな」
「…面白そう、だと…?」
「そう。僕は楽しく高校生活を送りたいんだよ。普通の高校じゃつまらなくて、ちょっと変わったここに入学したんだけど…卒業してこの学校ゲームをクリアする以外に面白そうなことがなくってさ」
「…それで今一番面白いことになってる俺に近づいてきたってか?」
「その通り。初日から告白されたり、担任に目を付けられたり…君と一緒にいれば絶対飽きないだろうと思ってね」
この葛西という男、爽やかな顔してるがどうやらまともな奴ではないらしい。
こいつからはクズ特有の臭いしかしない。
だが…
「おい、葛西。言っとくけど、俺は主席で卒業することしか考えてない」
「うん、まぁ大抵の生徒はそうだろうけど」
「俺は目的のためなら、躊躇いなくお前を利用したり、捨てたりするが、それでも俺と一緒に学校生活を送るつもりか?」
「…なるほど」
俺の挑発的な問いかけに葛西はニヤリと笑う。
こういう奴は突き離してもなにかしらちょっかいを出してくる。それなら近くに置いておいて警戒し、利用できるところでは徹底的に利用してやる方がいい。
しかし、ただ近くに置いておくだけでは俺の身が持たない。だからこそ、こいつにも俺を警戒させて簡単にはちょっかいを出させないようにする必要がある。
「やっぱり君は面白いよ。僕は学生生活を楽しむために君を利用させてもらう。その代わり、君も僕を徹底的に利用するといい。――勿論、僕が君を退学に追い込まないっていう保証はないけどね」
「お前こそ、後悔するなよ?」
そう言い残して俺はその場を立ち去った。
やれやれ、初日から厄介な奴に目を付けられたな…。面倒くせぇ…
「もう用事は終わったんですか?」
教室から出ると、不意に声をかけられた。
「…なんだお前か…何か用か?」
振り返ると習志野が立っていた。
「一緒に帰ろうと声をかけようと思ったんですが、用事があるみたいだったので終わるまでここで待っていました」
習志野は曇りのない笑顔をこちらに向けてすっと隣に並んできた。――まぁ、こいつも見た目は悪くないんだよな…
「別に用事なんてねぇよ」
「なるほど。あれは私と一緒に帰るための嘘だったんですね」
どんだけポジティブシンキングなんだよ、お前は!!
「…いや、別にお前と帰るつもりなかったんだが」
「えー!!そうなんですか!?」
「っていうかそこで驚くお前に俺はびっくりだ」
「ひどいですよ~」
習志野はそう言って俯いてしまう。軽くからかうつもりだったんだが…からかうとすぐにいじけるところは昔と変わらんな。
そう思いつつも、少し言い過ぎたと謝ろうとすると…
「…じゃあ、一緒に帰っちゃダメですか…?」
「!!」
習志野の方に目を向けた瞬間に、不覚にも不安気な表情を浮かべて上目遣いでこちらを見上げる彼女に目を奪われてしまった…。
「…別についてきたいなら勝手にすればいい…」
俺は目を反らし、ぶっきらぼうに返事を返す。かすかに自分の心臓の動きが速くなっているのを感じた。
「はい!ありがとうございます!!」
俺の返事を聞いた習志野はパアッと表情を明るくして元気に笑った。
まぁ、これも俺にフラれないためのアピールなんだろうけどな…
そう思いつつもどこか憎めず、すぐ近くの寮まで並び、他愛のない会話をしながら帰るのだった…。
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