第11話 有名人 1
人間は皆自己中だ。
普段は善人ぶっている奴も、被害者ぶっている奴も、友達面している連中も、いざとなれば容赦なく他人を陥れる。
それが見ず知らずの他人だろうと、ついさっきまで仲良くしていた友人だろうと、はたまた自分を助けてくれた恩人だろうと関係ない…。ただ自分が助かることを優先する…。
「…おい、これはどういう冗談だ…?」
「だ、だって、彼らが他に生贄を連れてこれば今後僕には手を出さないって…」
「……」
「も、元はと言えば、君が僕のいじめをなくしてくれるって言ったんだろ?これが一番効率が良いんだ!僕は悪くない!!」
さも当然のように、自分を正当化して、平気で裏切る。
そして、その裏切りを告げた同じ口で「もっと他人を信じろ」と平気でほざく…。人間とはそういう生き物だ…
※※※※
「――ろ、氷室辰巳!」
はっと我に返った時には時既に遅しだった…。
「私の授業でボーっとして、挙句指名しても無視とは…良い度胸だな、氷室辰巳!」
俺の目の前には笑顔を湛えた大井先生が立っていた。…もちろん目は笑っていない…。
今は休み時間が明け、午後の授業中。大井先生の進行の下、学級委員をはじめとした各委員を決めていたらしい。
「…すみません…以後気を付けます…」
「おい、氷室。お前何かやりたい委員はあるのか?特別に希望を聞いてやろう」
大井先生の高圧的な目が「謝っただけで済むわけないだろう?」と言っている。
このドSからは…逃げられない…
「じゃ、じゃあ、体育委員とかですかね…ほら、俺ってこう見えても運動得意な方ですし…」
「そうか。学級委員がやりたいんだな。約束通りお前の希望を聞いてやろう。」
…は?誰が学級委員なんて言ったんだよ!そんな明らかに面倒くさそうな役職嫌に決まってるだろ!!絶対ぇ、誰も立候補しないから俺に押しつけようとしてるだけだろ!!
…いや、落ち着け。もしかしたら単に聞き間違えただけかもしれん。ここは冷静に間違いを指摘しておこう。
「あの、先生。俺の希望は体育委員――」
「何か言いたいことでもあるのか?」
「…何もありません…」
大井の殺気のこもった目に、俺の抗議はあえなく封殺されてしまった。
「さて、ようやくこれで一つ目の役職が決まったな」
「先生!」
俺の学級委員長就任の決定が下され、大井先生によるさらなる役職選定が始まろうとしたその時…一人の女子生徒の手が挙がった。
「何だ、習志野?」
「私、学級副委員長をやりたいです!」
習志野がこちらに向かってVサインを送ってくる。
…いや、別にお前が副委員長になったからって俺が学級委員長になることに変わりはないんだが…。
俺の苦笑いに習志野は満面の笑みで応える。…多分あいつには伝わってないだろうな…
「フン、まぁ良いだろう。だが、お前は既に氷室に『告白』し、その結果次第ではすぐにでも退学する可能性がある。念のためもう一人予備の副委員長を決めなければならんな。」
俺達生徒がフラれたかどうかは、生徒端末によって教員に把握されているらしい。(どんな方法で把握しているのかは知らんが…)
そのため、当然習志野の告白が『保留』になっていることは大井も把握しているようで、スムーズに次の進行をしていく。
しかし…
「おい、あの二人まだ付きあってないらしいぞ」
「馬鹿、そんなの生徒端末のペア一覧ページ見れば分かるだろ?俺はてっきり習志野さんがフラれたのかと思ったよ」
「えー、じゃあ私氷室君狙ってみようかな~」
「マジで?」
「いやいや、冗談だって~」
「何それ~」
他の生徒は俺達が『付き合った』わけじゃないことは生徒端末で確認できたものの、『保留』になっているということは知らなかったらしく、ざわざわと騒ぎ出す。――っていうか他の生徒の告白状況も生徒端末で公開されんのかよ!プライバシーの欠片もねぇ学校だな!!
そして後半の奴!…俺、結構打たれ弱い方なんでほどほどにしてもらえますか…。
「うるさいぞ、貴様ら!!今騒いでいた奴ら、しばらく立っていろ!」
しかし、そんなちょっとした騒ぎも我らが大井先生の怒声にかかれば一発だ。
しゃべっていた奴らは大井の威圧感に圧され、正直に起立する。
ざまぁみろ!俺のことをからかってたからだ!
ついつい自分のことをからかった奴らが罰を受けていることに顔が緩んでしまう。敵の不幸は最高だぜ!
「おい、氷室。何を一人でニヤ付いている?」
「…いや、気のせいですよ…?」
大井に即効バレた!っていうかアンタどんだけ俺のこと見てんだよ。もしかして俺のこと…
「…気味の悪い勘違いは止めろ。――っていうか面倒くさいな。もし習志野が退学したらお前が副委員長を指名しろ!習志野の退学もお前次第なんだからいいだろ?」
…こうして結局俺が一番の外れくじを引く羽目になった…。
そして、その後はびっくりするようなスムーズさで他の役員はあっという間に決まっていった。
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