第7話 恋星高校恋愛学科 4
「――とまぁ、ルール説明はこんな感じだ。ちなみに他人を蹴落とすことを躊躇ってると真っ先に脱落するから気をつけろよ。――分からないことがあったら後から適当に聞きに来い!」
残りの細かい説明を終えた大井が生徒達を見渡して反応を窺う。
しかし、俺を含めたクラスメート達は、早くルールを理解しようと必死に生徒端末を読みふけっている。
教師の口から間接的にではあるが他人を蹴落とすことが肯定されるとは…。こりゃ、他の奴らに遅れを取るわけにはいかねぇよな。
だが、そんな時間も我らがボス・大井みどりの言葉ですぐに終わりを告げた。
「お前ら、ルールを覚えようと躍起になるのもいいが、これから最初の重大イベントを始める。――自己紹介タイムだ」
「「「!?」」」
生徒達の顔が一斉に前を向いた。
自己紹介…確かに重要なイベントだ。良い相手を探す意味でも自分をアピールする上でも重要である。
「じゃあ、最初は…」
大井が生徒名簿を眺めながら記念すべきトップバッターの選定を始める。
俺をはじめ、クラス全員がトップバッターにならないようにと必死に祈っている。
祈りが通じたのだろうか。しかし、それは予想外の叶えられ方だった…
「すみません!クラスを間違えて遅くなりました!!」
ガラガラっという音とともに勢いよく教室の扉が開かれ、一人の少女が息を切らして入ってきた。
クラス全員からの注目を集めた彼女はこちらに振り向く。
腰ほどまで伸びたストレートの黒髪にぱっちりとした目、白い肌に整った顔立ち…
小柄で童顔で美人というよりは可愛いという印象だ、
「すみません!六里中学校(ろくさとちゅうがっこう)出身、習志野栞(ならしのしおり)です!」
何を勘違いしたのか、少女は勢いよく頭を下げて名乗った…。
「貴様、この私の授業に遅れ、さらに勝手に自己紹介タイムとは…良い度胸だな?もちろん学校のルールについては理解してるんだろうな?」
大井の表情は怒りでヒクついており、その目は「万が一知らないようならブッ殺す!」と言っている。
クラスメート達が先生の顔を見て「ひっ!!」と小さく悲鳴を上げている。
しかし、この少女、相当度胸があるのか、もしくはただの馬鹿なのか、大井に笑顔を向ける。
とりあえず、市川凛とは異なり、胸的な意味ではこの習志野栞も大井先生と同種のようだ。
「はい!この学校のルールについてはさっきまでいたクラスでしっかり聞いてきました!」
習志野ならしのは幼く純真な笑顔で、元気よく答える。
「チッ、まぁいい。とりあえず、お前から自己紹介をしろ…」
その穢れなき笑顔に負けたのか、それとも貧乳のよしみか、大井は怒りを飲み込み、自己紹介の続きを促した。
あの鬼軍曹が折れた、だと…?
その光景に俺だけじゃなく、クラス全員が目を丸くした。
「改めまして、習志野栞ならしのしおりです!得意な教科は――」
最初の登場が派手だったせいか、自己紹介でも何かやらかすのではないか、とクラス中が注目するが、特に変わったところはなく、オーソドックスな自己紹介の内容が続く。
しかし、次の瞬間、大井が怒りを取り下げたことなど比べ物にならないような衝撃が俺を襲った…
「そして最後に、私には好きな人がいます」
その発言にクラスがざわつく。
へぇー…。でも、この学校で普通に恋愛なんて無理そうだよな。好きな人がいるってことは、おそらく自分の夢か好きな人のどっちかを諦めなきゃいけないだろうし…ご愁傷様。
「――氷室辰巳君、私はあなたが大好きです!」
「……は?」
突然自分の名前が呼ばれ、思わず間抜けな声が飛び出す。
…今、何か衝撃的なセリフが聞こえた気がしたが…聞き間違いか?そうだ、聞き間違いに違いない!
しかし…
「辰巳たつみ君、私と付き合ってください!!」
習志野が勢いよく頭を下げる。
改めて声の聞こえた方――習志野を見ると、頬を赤らめて恥じらいながらこちらを上目遣いでチラチラと見ている。
聞き間違い…ではないみたいだな…。
俺の高校生活は波乱の幕開けとなった…。
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