第8話 自己紹介
「辰巳君、私と付き合ってください!」
恋星高校入学初日、しかも最初の自己紹介で初対面の女子から告白を受けるという同校史上初の出来事を経験した俺は完全に混乱していた。
「石川さくらです。特技は――」
教壇の前ではクラスメート達の自己紹介が着々と進んでいるが、動揺しているせいか全く耳に入ってこない。
あの公開告白の後、担任の大井は生徒達が騒ぎ出して収拾がつかなくなった教室を、
「テメェら、ギャーギャーうるせぇぞ!そんなに私を怒らせたいのか!?あ!?」
と、一喝して収め、とりあえずこの件は自己紹介の時間が終了するまで後回しにする、ということになった。
その後は大井によって適当に選ばれた生徒がランダムな順番で自己紹介を行っている。
ちなみに、俺は習志野の次に指名された。正直、動揺していたせいか、名前や趣味などありふれた自己紹介をするので精一杯だった。おそらく俺史上最低の自己紹介だっただろう。――まぁ、毎年大した自己紹介なんてしてないんだが…。それに『出会って3秒での告白事件』のせいでみんな俺の自己紹介なんかそっちのけでコソコソしてたし…。
俺が普通の自己紹介をしてしまったせいか、オーソドックスな自己紹介をする、という空気が出来上がってしまった。ありふれた自己紹介ほど聞いていて退屈なことはない……まぁ、俺のせいでもあるんだが。
それよりあの女、一体何を考えてんだ…
俺は悩みの種である少女、習志野栞の方に視線を向けると、ばっちり目が合ってしまった。
…いや、何呑気に手なんか振ってんだよ!…確かに可愛いけども!!
習志野は満面の笑みで思いっきりこちらに手を振っている。……あっ、バレた…
こちらに手を振るのに夢中になっていたのか、鬼教師・大井が近づくのに全く気付いていない。
「あうっ!!」
「いい加減にしとかねぇと殴るぞ」
大井による出席簿での攻撃を後頭部に受け、頭を押さえてうずくまる習志野。
…いや、もう殴ってるし!っていうか、いくら軽くでも出席簿の角は止めてやれよ…
若干、習志野に同情しかけるが、今はそれどころではない!
そもそもあいつは何を考えてやがるんだ…?
入学初日、しかも自己紹介のトップバッターでクラス全員が注目する中での公開告白。正直それだけでも驚きなのに、あいつがやったことはそれを遥かに凌駕している。
何せここは恋星高校恋愛学科…告白して、フラれたら退学という独自のルールも持つ学校なのである。しかも、彼女はルールを理解知った上でこのような所業に出たらしい。
つまり、習志野栞という少女は、この学校全員が告白に慎重にならざるを得ない『フラれたら退学』というルールを理解した上で、初対面の男に告白してきたのである。
あいつ、何が狙い何だ…?考えられるとすれば…
①俺に一目惚れして、何も考えずに本気で告白している。
②俺に近づき、首席卒業のために利用しようとしている。
③この学校に入学したものの、説明を聞いたら辞めたくなったので手っ取り早く告白してみた。
…こんなところか。
①は…まずないだろう。確かに俺はそこそこイケメンで通っているが、一目惚れする程の顔ではない…。自分で言うと悲しくなるな…
②は可能性アリだ。ただ、なぜ俺を選んだかは謎だ…
③も大いに可能性アリだろう。いきなりほぼ卒業不可能なルールを言い渡され、卒業したらしたで好きでもない相手と結婚させられる可能性が高い。辞めたくなるのも当然だ。
ただ、これも②と同様俺を選んだ理由が謎だ。
そんなことを考えている間に最後の生徒が自己紹介のため教壇に上がった。
「智歩作(ちほさ)中学校出身の市川凛です」
最後の一人は、俺の後ろの席に座る、俺と同じく大井に好かれた者、もとい大井チルドレンが一翼、市川凛だった。
その我儘ボディはやはり男子生徒の注目の的である。
改めて見るとやはりデカイ…。自然と目が吸い寄せられる。
ふと、市川と目が合った。…いや、別に胸を見てたわけでは…っていうか俺だけじゃないし!?
咄嗟に目を反らし、一人心の中で寂しい言い訳をしていると、市川のツリ目がちな目が一層鋭くなった。
「私は主席で卒業することにしか興味ありません。他の人がどう思っているか知りませんが、私は敵には一切容赦しませんのでそのつもりで。――以上です」
強い口調でそう言い残すと、市川はそそくさと教壇を降りて自分の席に戻っていく。
そして俺の横で一瞬立ち止まると、キッと鋭い目付きでこちらを睨みつけてきた。
え?もしかして俺、市川に敵視されてる…?
「告白されたくらいで調子に乗らないで。主席で卒業するのはこの私よ」
いきなり宣戦布告!?っていうか俺、別に調子乗ってないんだが…。――まさか、何もしないうちに入学早々学年トップを敵に回すことになるとは…。
一難…去ってないのにまた一難…。俺の高校生活はまた面倒くささが増したようだ…
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