練習場

ファクトリ

　製造している。

　なにかの部品らしい。

　これがなにに使われる部品かを僕は知らない。

　ある機能を持っていることは知っている。それだけだ。僕に与えられた仕事は仕様に沿った能力を持つ部品を作ることだけ。

　毎日のように作り出す。

　毎時間のように作り出す。

　毎分のように作り出す。

　毎秒のように作り出す。

　僕がこれを作るのに1ミリ秒もかからない。仕様に変更が入らない限り、僕はまったく同じ機能をもったそれを寸分違わず作り出す。識別子は違うけれど、同一性は求めない仕様なのだ。この世界には僕と同じような役目を持った人がたくさんいるらしい。このクラスには僕ひとりしかいないけれど、たまに兄弟がいるクラスもあるなんて聞く。どちらにせひとりにひとつしか作れないのだけど。

　作った部品はある機能が実行され、そこでまた別の部品が作られたりする。そうやって組み合わせて、繰り返して、計算して、保存して、出力して、世界はすごいはやさで動いている。

　僕はその世界のほんの一部なのだ。

　なんのための世界かは知らないけどね。

　どこかにこの世界のことをよく知っている人がいるのだろうか。なんでこんな世界を動かしているのだろうか。

　僕は、どうしてこの部品を作っているのでしょうか？

　僕の仕事は、世界の役に立っているのでしょうか？

　ほんとうに？

　まじめに？

　また部品を作って欲しいというオーダーが来たから、僕はいつもどおりの部品を作って送り出した。

　上手く動くんだよ。そんなことを思っても、本当は意味がないのだけど。設計図のとおりにしか作れない。だから、設計図が正しければ上手く動くし、間違っていたら想定しないハズレが起きるだろう。

　僕にはどうしようもないのだ。

　僕は、設計図を作る人ではなく、ただ静的なファクトリなのだから。僕自身が設計図に記されているクラスのひとりでしかない。

　だから、僕が間違っていないことを祈ろうと思う。

　もし間違っていたら、きっと誰も許してくれないだろうから。