夜に爪を切る
ぱちんぱちんと爪を切る。
仕事から帰ってきて、お風呂に入り、食事をし、ふと手をみたときに爪の白いところが広がっていることに気付いた。
別に長いのも嫌いではないのだけど、でもあまり長いのも不衛生だし、爪を切ることにした。夜だけど。
小引き出しから爪切りを取り出した。
青いケースから爪切りを取り出した。
二、三度、握って、絞まるような音を聞く。ティッシュを引き出して目の前に置く。それから右手の爪から切り出した。
ぱちんぱちんと爪を切る。
端の方から爪を切る。
古くて鈍い爪切りでは、抵抗を強く感じる。買ったばかりの頃は驚くぐらいスムーズに切れたのに、そんな驚きが続くことはなかった。
ぱちんぱちんと爪を切る。
もう夜だけど爪を切る。
夜に爪を切ると信じてはいない迷信を思い出す。
夜に爪を切ってはいけないという。親の死に目に会えないのだそうだ。迷信。いまどき信じるような人は少ないだろう。
夜に爪を切るのがいけないことになっているのは、切った爪の破片が囲炉裏に落ちて、火が着いて燃えたときに、嫌な臭いをさせるからと読んだことがある。
ほんとうだろうか。いまどき囲炉裏なんてないからわからない。当然、爪に火を灯したこともない。
ぱちんと弾けた爪が飛ぶ。
弾けて入る囲炉裏はない。
拾ってティッシュの上に乗せる。
残念でしたね、と少々思った。
残念だったな、と少々思った。
そんなことを考えながら、夜、爪を切っている。右手を終えて、爪切りを持ち替える。左手の爪を切って、今度は足を出す。足の爪は形が悪い。硬いし、まるまっていたりする。下手に切ると痛くなる。一番、おかしな形をしているのは小指だ。
けれど、だからといったって、容赦はできない、しはしない。
ぱちんぱちんと爪を切る。
足の異形な爪を切る。
二十の指の爪を切り終えて、ティシュの上の破片を確認して、丸めてゴミ箱に捨てた。やすりはめんどうなのでいいだろう。それほど形を気にしないし、ピッチャーでもない。
爪切りを青いケースに閉まった。
爪切りを小引き出しに閉まった。
手を洗った。
ふと掻いた頬はくすぐったかった。
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