そうぞう
普段、楽器を演奏している。
どの楽器かは言いたくない。嫌いではなく、むしろ好んではいるが、だからこそこ今、言うべきところではないと考えている。しいて言えば金管楽器とだけ言っておこう。
それなりに若い頃から楽器に触れてきて、ずっと考えていることがあった。曲は、新しいものがいくらでも作り出されているのに、楽器はほとんど増えていない。
電子的な要素から生まれたものはいくつかあるが、昔から続いているシンプルな構造の金管楽器では名前の語源もあやしいような時代から続いているものばかりだ。
楽譜に指定されているのだから増やしにくいというのはわかる。
しかし、昔の人はいろいろな工夫をこらして現代まで伝わってきた楽器を作り出したのだ。どうしてこんなに大きいんだとか、どうしてこんな風に曲がっているんだとか、どうしてこんなに指を動かしにくいんだとか、そんな楽器たちを。
だからこそ、同じように楽器を作りたいと思うのはおかしいだろうか。
自分の好む音が、自分の好む形から出る、それは楽しいことではないだろうか。
かといって、いきなり金管楽器を作り出せるわけではない。材料費だけでもすごい額になるし、うまい具合に形を整えるのだって不可能だ。
だからいまは設計図を描いている。
理屈を勉強し、臨んだ音色のでて、かつ演奏のしやすい形、音色だけでなく見た目まで美しいものを思い描き、ノートに書き溜めていた。
響きは、波の振動で決まる。波長が長く、振動数が少なければ低くなる。そのため低い音を出したければ大きくする必要があるだろう。高音を重視するならその逆だ。
どうにかして高音も低音も上手く出せないかとは思うが、構造上きびしい。いっそ、二重構造にとも考えるが、重さの問題もあるし、アーキテクチャに美しさが足りないように感じる。
楽器はもっと美しいものだ。
目を瞑る。
想像の中で。
楽器を演奏する。
まだこの世に存在しない楽器。
まだ聞けるはずのない音色。
人を増やす。
みんな、名前のない楽器を演奏している。
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