ワールド・オン・ザ・ワールズ

 人間がダウンロードされているのを眺めていた。

 様々な条件を設定した人間は、さすがにトマトやりんごのように簡単には落ちてこない。

 この人間は私の夫になる。

 この世界で、自由恋愛は許可されていたが、あまりそれを望む者はいなかった。なぜならめんどくさいからである。

 自由意志を持った個性あふれる人間を相手に恋愛などをして上手くいく確率はそうそうない。特に、この時代の人間は、子供の頃からなんでも思うがままに好き勝手、出してきたのだ。わがままに甘やかされて育てられた男なんかと付き合おうなんて思うものか。

 それなら、自分の理想通りのパラメータを設定して、配信してもらうほうが早くて確実だ。どんな見た目にだってできるし、どんなわがままだって許してくれる。やさしくて、かっこよくて、理想的な男を作り、ダウンロードする。彼は、アブノーマルな性癖だって受け入れてくれる。一見、拒否してだけど最終的には受け入れるなんて細かなことだってできる。あとからなにか気に食わないことがあったら、更新もできるし、デリートだって構わない。

 人間は、人間を作り出す自由を持っているのだ。

 人間は、作り出した人間とセックスして子供を産むこともできる。

 家族ごっこに興味がなければ、自分だけの遺伝データから子供を産むことも可能だ。もっといえば、産まずにダウンロードしてもいい。

 私だって、父親とその父が作った母親から生まれた子供なのだ。

 世界はもう地球の上で歩いて生活していた原始時代ではない。


 現代。地球上に暮らしている人間はいないとされている。もしかしたら隠れて生活しているような物好きがいる可能性が否定できないという程度で、公式にはゼロということになっている。

 だから地球上は動物たちの天国となっている。その映像は学習用や娯楽用として閲覧可能だ。緑の自然が溢れる世界で、野蛮な動物たちが自由に戦い、生存競争を繰り返している。

 人間はもうその連鎖から抜け出した。

 地球上に点在する一部の島にデータセンターを建設し、ロボットたちに管理させている。人間はそんな一部の建物とネットワーク上を行き交うただの電子データへと進化した。

 電子の世界では、なんでも自由にできる。好きな食べ物をすぐに出すこともできれば、部屋の掃除も必要ない。余計なものは念じるだけで消せるし、必要に慣ればダウンロードしなおせばいい。

 そうして、そういった自由の後に、人間はついに人間を作り出すことを許容した。なぜならそちらのほうが便利で、多くの人に望まれていたからだ。

 すべては、パラメータである。

 ゆえに、自由に作り変えることができる。

 めんどうならテンプレートから呼び出せばいい。

 好みの範囲でカスタマイズできる。

 配偶者も、友人も、両親だって、物心ついてしまえば作り直すことができる。人間はコピー可能になったのだ。両親は自分が望むようなできのいい子供を設定して育てればいいし、子供は自身の領域ごとコピーし、両親を自由に作り変えることができる。

 人間は、思うがままに世界を作ることができる。

 世界の上にある世界は、欲する人間の数だけあるのだ。


 夫のダウンロードが終わった。

 私は、これから彼と付き合い、結婚し、子供を生んで、幸せな生活を送っていく。そういった未来が約束されていて、そうなるための過去が既に用意されている。

 愛しているよ、あなた。

 愛しているよ、私のベイビー。



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